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田園調布カウンセリングオフィス所長 山本貢司氏

今回は、田園調布カウンセリングオフィス所長で臨床心理士の山本貢司(やまもとこうじ)さんにお話をお聞しました。

山本さんは、心理療法の中でもトラウマを扱う数少ない心理士としてご活躍されています。
そんな山本さんも現在に至るまでに様々な紆余曲折がありました。是非ご覧ください!

田園調布カウンセリングオフィス会社概要

会社名称 田園調布カウンセリングオフィス
代表者 所長 山本 貢司(やまもと こうじ)
主な事業 ・ストレスや人間関係の問題についての心理カウンセリング

・うつ病や強迫性障害、パニック障害、不安障害、対人恐怖症など気分障害についての心理カウンセリング

・PTSD(心的外傷後ストレス障害)や複雑性PTSD、解離などのトラウマの諸問題についての心理カウンセリング

会社所在地 〒158-0085
東京都 世田谷区玉川田園調布1-10-15 田園ハイツ3階
会社HP https://stress-cbt.com/

 

始めに現在のお仕事内容を教えていただけますでしょうか。

臨床心理士、公認心理師として、心理カウンセリングを行っています。対象となる方は、うつ病などの一般的に気分障害に困っている方や、事件や事故、虐待などの過去の辛い出来事によるトラウマを抱えた方、重度なトラウマの場合は解離性障害や解離性同一性障害、いわゆる昔でいうところの多重人格などの症状に苦しむ方です。

ここのオフィスは医療機関ではないため、お薬は処方できませんが、元々は心療内科や精神科といった医療機関で臨床心理士として心理カウンセリングをしていた経験から、医療に近いスタンスで運営しています。
必要に応じて精神科や心療内科を紹介することや、医師と連携をとって対応をすることもあります。

 

現在のお仕事に就かれたきっかけを教えてください

そうですね、心理学への興味は高校時代に遡ります。はじめは理系の科目が何となく得意だったので理系の大学に進もうと思っていたのですが、3年生になって「何か違うな」と感じるようになりました。

国語や歴史など文系の科目は苦手でしたが、なぜか倫理や政経が好きだったことや、「数字や物体を相手にしても何だか淡々とした気持ちになり今ひとつ面白くないので、もしかすると自分は人を相手にする方が合っているのではないか」と思うようになりました。そこで心理学に興味を持つようになりました。

ただ、高3の途中で理系から文系にチェンジしたのですが、さすがに文系科目の準備が間に合わず見事に受験に失敗したんですよ(笑)。私は北海道出身ですが、元々実家が経済的に豊かではなく、道内の国立大学しか選択肢がありませんでした。

その当時、道内では第一志望で心理学部のある大学を選ぶと、第二、第三志望の大学には心理学部がないという状況でした。残念ながら第一志望に合格できなかったため、仕方なく偏差値で選んだ第2志望の経済系大学に進むことになりました。

そして、そのまま大学を卒業し、銀行員になったんです。

 

銀行からキャリアをスタートされたとの事ですが、安定した銀行員という職業からなぜ心理の方へと移動されていったのでしょうか

確かに福利厚生も充実して社会的には安定はしていました。

しかしですね、やっぱり仕事の内容が面白くなくて…。「少しでも社会のため、人のために何か貢献できれば」と考えて公共性の高い金融機関に入行したのですが、実際の職場は、組織の重圧や序列、絶対に間違ってはいけない作業、画一的な評価、出世競争など、金融の組織としては当たり前の話なのですが、そういった文化は僕の心にはフィットしていませんでした。

もちろん、人間味のある方もいらっしゃったり、横のつながりもあったり、興味深い特殊な仕事をさせてもらったりと、悪いことばかりではなかったです。
でも、やはり息苦しさや閉塞感を感じながら働いていました。

そして27歳の時、職場の健康診断をきっかけで小さな脳腫瘍が見つかったんですよ。ドクターから「この部位に腫瘍がにできるのは10万人に1人ぐらい」と言われて、「僕は10万人に1人の男か」と妙に感心したり…(笑)。

でも、その時にふと思ったんです。「これには何か意味がある」と。
結果的には命に関わる病気では無かったのですが、「もしこのまま死んでしまったら、自分は今の人生に納得できるだろうか」と考えました。曲がりなりにでも死というものを意識することになり、「やっぱり自分の人生、納得しないままに進むのではなく、もう一度やりたいことにチャレンジした方がいい。

たとえ失敗したとしてもチャンレンジした自分に納得できる」と思いました。そこで思い切って心理の道に舵を切ったんです。そこから暫くして銀行を辞め、それまでとは全く畑違いの心理系の大学院を受験して、何とか合格できたという流れです。

大学受験の時から大分回り道をしましたが、病気をしたことがきっかけで、希望の道に軌道修正することができました。

 

大学院で数年間勉強された後はどういった形で心理士としてのキャリアをスタートしたのでしょうか

はじめは心療内科と精神科を掛け持ちして心理カウンセリングを行ったり、リワークといううつ病などで休職された方の復職支援を行う機関で臨床経験を積んでいきました。

ストレートで大学院に上がってきた人たちとは大分歳が離れていましたので、早く臨床経験を積んで年相応にスキルアップしなければと思い、週7日で働く日々を送っていました。

それなりにスキルアップしてきたと思いますが、その時の名残で今でも祝日以外は働いています。

 

そこから独立しようと思ったきっかけは何でしょうか

現場ではありがたいことに、色々な患者さんを相手に心理カウンセリングやグループワークをさせていただきました。

しかし、医療機関では現場の制約によって、心理カウンセリングでできることとできないことがありました。そのため、沢山の方の心理カウンセリングをするほどに、独立して環境的な制約を減らすことができたら、今よりもっと良いカウンセリングができるのではないかと思うようになりました。

医療機関では医師からの指示やリクエストを受けて心理カウンセリングをしていくのですが、心理士としての立場から「もっとこうした方がいい」という内容が見えてくるんです。
それは当然のことで、医学の分野では臨床心理学を教えていないので、医師は心理士に何ができるのかを正確には把握していません。
でも、医療機関では、医師を中心に治療をしていきますので、医師の知らない心理カウンセリングを勝手に行うことはできないのが実情です。

そんな中で気づいたことの一つに、精神的な病気が長期化した患者さんの殆どが何かしらのトラウマを抱えていることがありました。
当時は臨床心理学や精神医学では、トラウマの治療はあまりメジャーではなかった状況でしたし、実際に薬物療法のみでは根本的な治療は難しい現状があります。
そのため、本気で患者さんの病気を治すことに取り組むのであれば、臨床心理学の立場からトラウマを扱うことが必須だと思いました。

そのためには、やはり独立すべきという思いが強くなり、ある程度の臨床経験を詰んだ段階で起業を決意しました。

 

起業から現在に至るまで大変だったことを教えてください

大きく分けて3つ程ありまして、1つめは資金繰りです。

個人の医療機関では臨床心理士の給料は高くないので、独立資金をどのように貯めるかというところが大変でした。そこで政府系金融機関が提供している無担保の創業融資にお世話になりました。

また、カウンセリングは一日に大量にこなせる訳ではないので、キャッシュフローの面でも苦労しました。カウンセリング料金も相談される方にとっても経営にとっても適正な価格を見極めるのにも少し時間がかかりました。
幸いに心理カウンセリングは製造業などと違い原材料費や大規模な設備投資などは全く必要のない業種ですので、資金的な負担は軽く経理の複雑さはほとんどないことが助かりました。

実は銀行員ではあったのですが経理などの事務的なことは本当に嫌いなもので…(笑)。そして、心のことに専念したいのに、お金の事を考えるのは嫌だなと思いながら、事務処理をするのがしんどかったですね。
しかし、必要とする方々に心理カウンセリングを提供するためには綺麗事を言っても仕方がなく、経済活動として事業を成立させることが大前提になりますから、資金繰りをいい加減にはできません。
事業の立ち上げや継続のために補助金など利用できるものは利用して事業を軌道に乗せました。

 

2つめは集客です。

カウンセリングは商品を売ることとは違い、大々的に宣伝をしたらお客さんが来るというわけではありません。胡散臭いと思われてしまったらダメですし、一般的なマーケティングの技術をそのまま適用させることはできません。
相談される方に少しでも安心してもらうためには、こちらが心の問題を解決できるという科学的なエビデンスを示すことは当然必要ですし、「営利目的ではなく本気で病気を治したい」という、真摯な気持ちをぶつけることが大切です。

他のカウンセリングルームのホームページを見て、自分だったら本当に行きたくなるかどうか吟味したり、過去に自分が心理カウンセリングをさせていただいた方々を思い浮かべて、その方々ならどう感じるか、その方々にどう伝えるかといった視点でホームページの文章を考えていきました。

開業後は、1年くらいで軌道に載ってきたと思います。
こちらでは科学的なエビデンスの多い認知行動療法であったり、トラウマという薬物療法では根本的な対応が難しい心の問題を扱ったりしたことが良かったと思います。よくある普通の”心の悩み相談”のような感じでやっていたら、1年経っても新規申込は増えなかったと思います。

あまり心理的なことを経済的な言い方で表現することは好きではないのですが、現代社会の心の問題において、心理カウンセリングに対する潜在的ニーズがどこにあるのかを考えると、扱っている機関の少ないトラウマの分野だろうと思いました。
そのため、トラウマの分野を専門にすることで、小さな事務所でもやっていける程度に、ニーズを獲得することができるのではないかという見込みはありました。
ただ、トラウマを扱う機関が少ないということは、それだけトラウマの問題を解決することが難しいということですので、こちらとしても相応の労力を払わねばならないことは覚悟していました。

 

3つめは、これは今でも取り組み続けていることですが、”ちゃんと治療すること”です。
うつ病であれば、研究が大分進んでおり、どのような作業をすると良くなるのかが大方定まっています。そのため、できる限りその方法に忠実に手続きを踏んでいくことで、うつ病を改善することができます。

しかし、トラウマの分野はうつ病と違って、実態がはっきりしない部分も多く、まだまだ研究途中の分野なんです。単回性トラウマであれば、EMDRのように科学的に確立された手法は存在しますが、度重なる長期に渡る虐待体験などの複雑性トラウマや、解離性障害などの分野はエビデンスが十分に揃っていません。

開業をすると、様々な方が相談に来ますので、どんな形のトラウマに出会ってもちゃんと対応できないといけません。そのため、できる限り多くの論文や専門書を読んだり、自分で論文を書いたり、学会やワークショップに行くなど、時間やお金をかけて自分のスキルを高める努力を続けていく必要があります。

心理カウンセリングの知見は進歩し続けていますので、それに遅れないように、むしろエビデンスよりも先に進んだ実戦ができるように取り組むことで、ようやく質の良い心理カウンセリングを提供できるようになります。
昔は毎日夜2時頃まで専門書に目を通していたので、いつも睡眠不足でしたね。

 

今後更に力を入れていきたいことや目標があれば教えてください

まずは、できるだけ少ないカウンセリングの回数で、病気を治してあげたいという気持ちが大きいので、心理カウンセリングの技術を向上させるための自己研鑽を続けていきたいです。
なので、事業的な展開として、オフィスを大きくすることや支店を作るといったことは今のところ一切考えていません。

欧米と比較すると日本ではまだまだ心理カウンセリングは十分に普及しているとはいえません。この日本でカウンセリングが社会資本として残っていくには、とにかく良い実績を作ることが大事だと思っています。社会的にはカウンセリングは悩みを聞いてくれるという凡庸なイメージが独り歩きしているかもしれません。

そうではなく、心の病や傷を「しっかり治せる」ことを証明し、心理カウンセリングが社会にとって必要不可欠なものであると認めてもらうことが重要です。厳しい話ですが、心理カウンセリングが心の問題を解決するために効果があるものでなければ、心理カウンセリングはいずれ消えていくと思います。

すでにある程度の効果が証明されている医療や薬物療法とは違い、まだまだ心理カウンセリングの歴史は浅いですから、良い実績を積み重ねていく努力を続けることが、現代において心理に携わる者としての社会的な使命の一つだと考えています。

 

また、心の問題の中でもトラウマを扱うことは簡単ではありません。
医学の知識も必要ですし、災害や事件事故といった患者さんの心理的体験を自分の心を使って臨場感をもって理解し共感し対応する必要があります。それゆえ、心理士自身にも多くの負担や苦痛が伴います。

ですから、実はトラウマの分野に対して意欲を持った専門家はそんなに多くいません。しかし、そうした困難な分野であっても、「ちゃんと治せる」ことを実績として積み重ねることで、その分野について学ぶ心理士も増えていくのではないかと思います。

さらには、後からトラウマの領域に入ってくる将来の心理士にとって、現在トラウマの解決に取り組んでいる僕達の歩んだ道程が何らかの助けとなるような、いわば未来のための道標を作る臨床活動ができたら嬉しいです。

 

記事を読んでいる方へメッセージをお願いいたします

そうですね。まず一つには、ストレス体験した時に、頭が真っ白になる、声が出ない、身体が凍りつくなど身体が固まるような反応があった場合、その体験はトラウマ化していると考えられます。
親に怒られたり、いじめに遭ったりした場面で、そのような現象は起きているでしょうし、大人になっても会社の上司のパワハラやモラハラ、厳しい評価に曝されたり、リストラにあったりする場面でも、そうした現象が起きていると思います。

そう考えると、一般的に認識されている以上に世の中にはトラウマで溢れているといえます。しかし、トラウマを抱えていることを自覚できていない方が多く存在しています。
アメリカの調査統計では癌や肝硬変、胃潰瘍などの何らかの身体的な病気で通院されている中産階級の多くの人に、何かしらのトラウマがあることがわかっています。

ですので、トラウマに気づき、その心の傷に手当をすることは、身体的な病気を予防する上でも大切な作業になります。より多くの人にトラウマについて関心を持ってもらい、正しい知識を知ってもらいたいです。

 

そして二つ目には、日本では十分にはカウンセリングが普及しているわけではないので、カウンセリングを受けることに敷居の高さを感じる方が多いと思います。

ですが、1対1でカウンセラーと話してみると、むしろ現代社会の対人コミュニケーションで不足している理解や共感される体験することができて、カウンセリングは安心できるものと気づくことができる筈です。

トラウマによって漠然と生きづらさを抱えた方が、自分の心の傷に気づいた時には、気軽にカウンセリングの扉を叩いてほしいと願うばかりです。

 

山本貢司氏のおすすめの一冊はこちら!

維摩経講話 (講談社学術文庫) 著/鎌田茂雄

臨床をやっていく上で心の栄養になるようなこと、また「人間の心がどういった状態であると幸せなのか」ということを、古典を通してよく学んでいます。

禅や四書五経などの古典も良いのですが、読み慣れていない人にはやや難しいところがあります。そんな中で、「わかりやすいし、心理士の心構えとして、的を得ている内容だ」と思えた本が維摩経講話です。この世には迷いや苦しみが多く、人々の心が病んでいる。何とか救いたいけれどなかなか救えない。

そんなことに悩む維摩という人物が文殊菩薩と問答を繰り広げるお話で、人の悩みに対して真剣に向き合う姿勢がここに詰まっています。
心理臨床家として、そして1人の人間としていかに”慈悲”の心を持って生きるのかを教えてくれます。「経営が苦しい、資金繰りはどうしよう」といった事柄を考えていると、慈悲の心から離れてしまいがちですが、この本を読むことで再びその心に帰ることができます。

ここに戻ることで自然と人の心の本質が見えるようになります。自分の心を日常の雑事からリセットする上でいつも僕の支えになってくれている本です。

Amazon URL:
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投稿者プロフィール

『社長の履歴書』編集部
『社長の履歴書』編集部
新入社員を含めたフレッシュなメンバーを中心に、出版サポートの傍らインタビューを行っております!

就活生に近い目線を持ちつつ様々な業種の方との交流を活かし、「社長に聞きたい」ポイントを深掘りしていきます。

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