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株式会社サンマルクカフェ代表 小山 典孝氏

  • 11/11/2025
  • 11/07/2025
  • 仕事
  • 17回

今回は株式会社サンマルクカフェ代表、小山 典孝氏にお話を伺ってきました。

「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。

ぜひご覧ください!

 

会社名称 株式会社サンマルクカフェ
代表者 小山 典孝
設立 1989年3月
主な事業 サンマルクカフェ事業
社員数 191人[2,169 人] (2025年3月末現在)

※従業員数は就業人員であり、パートタイマーは年間の平均人員(1日8時間換算による年間平均人員)を[ ]外数で記載しております。

会社所在地 岡山県岡山市北区平田173番地104
会社HP https://www.saint-marc-hd.com/saintmarccafe/company_info/

 

事業紹介をお願いします

株式会社サンマルクカフェはサンマルクホールディングスの事業会社の1つとして、「サンマルクカフェ」の運営を行っています。

サンマルクカフェというと「チョコクロ」のイメージを持たれる方が多いと思いますが、私たちは創業時から「ベーカリーカフェ」として事業を展開してきました。

世の中には多くのカフェチェーンがありますが、当社は必ずしもすべてを競合だとは考えていません。目指しているのは、単なるカフェではなく、コンセプトや空間そのものにこだわった場所です。内装はホテルラウンジのような落ち着いた雰囲気を意識してきましたし、それを大きくPRしてきたわけではないものの、「くつろぎの空間を提供する」という軸は一貫しています。

今はまさに、その強みをもう一度見直し、新しい価値として磨き上げていくタイミングだと考えています。店舗ごとに実験を重ねながら、消費者のニーズに合わせた最適な形を模索しているところです。

 

驚いたのですが、サンマルクカフェでは全てのパン、サンドイッチを店内で手作りしているんですよね?

はい。サンマルクカフェでは、全店舗で朝の仕込み時に、その日のランチ用のベーカリーを準備し、サンドイッチもフィリング(具材)から手作りしています。ホットサンドも同様です。

実は私自身も入社してからの店舗研修でこのことを知ってとても驚きましたし、それと同時に、その強みが十分にお客様に伝わっていないという課題も感じました。パン屋さんでは手作りが当たり前と思われるかもしれませんが、カフェチェーンという視点で見ると珍しいことです。多くのカフェチェーンでは、サンドイッチはほとんど仕入れで対応していたり、最終仕上げだけを店舗で行っているケースが多いと思います。コンビニも同様で、全国5万店舗規模の流通でサンドイッチを展開していますが、“作りたて”を提供できる環境を持っているのは私たちの強みだと感じています。

そのため、現在はそうしたオペレーションのタイミングを見直し、さらに価値を高める取り組みを始めています。

例えば、従来は朝から昼までに一気に作っていたものを、注文ごとに“To order(トゥーオーダー)”で提供するように徐々にシフトチェンジしています。そうすることで、朝の仕込みの負担も軽くなり、全時間帯に仕込みが分散されるのでよりフレッシュな状態でお客様にお出しできるようになりました。もともと私たちの店舗には「手作り」という強みがありましたが、それをさらに進化させる段階に入っています。

 

サンマルクカフェでは、「&茶」ブランドを立ち上げるなど出店数を増やしています。

ぜひお近くの店舗に足を運んでいただけると嬉しいです。

https://www.saint-marc-hd.com/saintmarccafe/

https://www.instagram.com/saint_marc_cafe_official/

 

ここからは小山社長のことをお聞かせください。学生時代に打ち込んだことはありますか?

小学生から中学1年生まで剣道をやっていました。

親から「礼儀礼節を身につけなさい」と言われ半ば強制的に始めたため、当時はあまり好きではありませんでしたが、振り返ると、剣道を続けたことにはすごく意味があったと思っています。寒稽古や厳しい稽古を通じて、我慢強さや胆力のようなものが身につきました。転勤族の家庭で、母と姉との3人暮らしが多く、長男として少し厳しく育てられたこともあって、精神的な強さはその頃に養われたのだと思います。

しかし、剣道を辞めたいとは考えていたので、母から条件として出された初段取得のために必死に頑張り、合格した翌日に道場を辞めました。そして、その後は軟式テニス部に入部しました。楽しく青春できそうな部活も多々ありましたが、あえてハードな部活を選択しましたね。また、生徒会や放送部など文化系の活動にも注力しました。映画を見るのが好きだったので、放送部で映像制作にも興味を持ち、学園祭ではイベント企画なども担当していました。これが今のマーケティングの仕事にもつながっていると思います。

さらに、担任が古典の先生だったこともあり、最後は「古典研究会」という部活にも所属しました。現代語が禁止され、すべて古語で話すというユニークな部活で補習のような位置づけでもありましたが、とても楽しかったです。

様々なことにチャレンジしましたが、どれも今の自分の考え方や仕事のスタンスの土台になっていると感じています。

 

16歳からフライドチキン専門のファストフードでアルバイトされていたとのことですが、きっかけを教えてください

母の影響が大きいです。「自分のお小遣いは自分で稼ぎなさい」という考えの家庭だったため、高校生になってすぐにアルバイト先を探しました。ちなみに、当時はまだコンビニも多くなかったので、学生のアルバイトといえばファストフードが中心でした。

私はハンバーガーチェーンとフライドチキン専門店の店舗が並んでいた横浜駅近くの繁華街に行き、どちらにしようか悩みました。

その時ふと思い出したのは、幼い頃、家族みんなの分を買うためにお使いをした時のスタッフの対応でした。ハンバーガーチェーンでは待っている間に声をかけられることはなかったのですが、フライドチキン専門店では「ひとりで来たの?」「少し時間がかかるけど大丈夫?」といった声をかけてくれたり、シェイクをサービスしてくれたりと、子どもながらに「このお店はなんかいいな」と感じていました。

時給はハンバーガーチェーンのほうが20円〜30円ほど高かったのですが、その差よりも、雰囲気や接客のよさでフライドチキン専門店を選びました。高校生だったのでダメだったら他に行こうくらいの気持ちでしたが、これが私のキャリアの原点になりました。

それからもうひとつ、教員志望だったこともファストフードをアルバイト先に選んだ理由の一つです。将来は小学校の先生になりたいと考えていたことから、ファストフードでのアルバイトならマニュアルがある程度整っているので、「人に教える」というトレーニングができるのではないかと考えました。最初は教わる側でも、続けていけば教える側になれると考えたのが、このアルバイトを選んだ理由のひとつです。

 

教員志望だったというお話が出ましたが、なぜフライドチキン専門店に正社員としてご入社されたのですか?

当時、小学校教員になるには国立大学へ進学するか、私立の場合は文教大学に進学することが王道のルートでした。私は文教大学の指定校推薦を狙っており、進路指導の先生からもお墨付きをいただきかなり安心していたのですが、推薦が決まる秋になって同じ学年の成績上位者が「文教に行きたい」と志望を変更してきてしまい、評定平均の差で推薦枠を取られてしまいました。

突然のことで茫然としましたが、そこから国立を受験するには時間も厳しく、一浪することを決めました。

しかし、母から「予備校代は自分で稼ぎなさい。そして2浪は許さない。」と言われたため、アルバイトと受験勉強を両立する必要がありました。ちょうどその年は横浜博覧会(みなとみらいの博覧会)が開催されていたので、4月から9月までは契約社員として働き、夜はフライドチキン専門店でバイトをし、受験費用や予備校代を自分で貯めながら勉強をしていました。

しかし、自己採点の時点で「これは厳しいな」と判断し、就職して出直すことを決断しました。

そして実際に店長になってから通信制大学に通いました。

 

入社時のキャリアビジョンはどのようなものでしたか?

当時は教職への思いを完全に捨てていたわけではなかったので、「いつ辞めようか」ということしか考えていませんでした。正直、会社でキャリアを積もうなんて気持ちはまったくなかったですね。

周りの同期は、「エリアマネージャーになりたい」「将来こういう役職につきたい」という熱い思いを持って入社している人が多かったですが、私は「自分は先生になりたいから、ずっとここにいるつもりはない」というスタンスでした。今の自分からは想像できないくらい、当時は冷めた気持ちで働いていました。

 

ビジネスマンとしてやっていこうとマインドチェンジされたのはいつ頃ですか?

転機になったのは店長になって、通信大学で4年間学び終えた時のことです。当時はバブルが弾けた時期で、教員全体の採用枠もどんどん先細っていました。それまでずっと「先生になる」という目標を掲げてきましたが、現実的な障壁が一気に高くなってしまったことから、「だったら今いる場所で頑張ろうか」と気持ちを切り替えました。

そして、次のステップとして「エリアマネージャーを目指してみよう」と考えるようになりました。大きな決意というよりは、「雨が止むまで雨宿りしよう」くらいの気持ちでしたが、それが結果的に、ビジネスマンとしてのキャリアを歩み始めるきっかけになりました。

 

社会人時代に経験したお仕事のなかで「この経験があったからいまの自分がいる」または「この経験が今の事業に活きている」エピソードはお持ちでしょうか?

やはり一番大きかったのは、当時の組織の中で「ジェネラリストとしての経験を積む」という考え方に出会えたことです。

当時は営業職で入った人は基本的にずっと営業畑でキャリアを重ねていくというのが当たり前でした。マーケティングも、店舗で副店長を経験したあとに公募で移るような道はありましたが、今のようにFA制度や社内公募が活発な時代ではなかったので、基本的には縦割りのヒエラルキーの中でキャリアを積むことが前提です。

しかし、私は縦型の組織よりも、横型のよりフラットで並列的な組織の方が好きだったので、なるべく早く本部の機能に関わりたいと考えていました。そこで当時、経営企画部門の役員の方とお話しする機会があり、自分の考えを率直に伝えました。そのとき「だったらジェネラリストを目指した方がいい」とアドバイスをいただき、実際にその方の采配でさまざまな部署を経験させてもらえることになりました。商品開発、経営企画、オペレーション開発、マーケティング、購買、店舗開発と、いわゆる“川上”と呼ばれる領域を幅広く経験できたことは、自分にとって非常に大きな財産です。

この出会いとアドバイスがなければ、営業だけのキャリアで終わっていたかもしれませんし、この経験が今の自分の土台になっていると感じています。

 

サンマルクカフェ社長就任の経緯とご心境をお聞かせください

1つ大きなきっかけとしては、前職の株主が日系企業から外資系に変わったことが挙げられます。いわゆるバイアウトによる環境の変化です。私は当時、店舗開発の責任者をしていたので、出店に関する目標感やアプローチの違いといった点では多少のギャップがありました。もちろん揉めたわけではありませんが、方向性の違いは確かに感じていました。

そしてもう1つ大きかったのは年齢です。55歳のときに「この先の5年をどう過ごすか」という選択に直面しました。ブランドに不満があったわけではなく、「自分のキャリアの総集編のような5年」をどう過ごすかを真剣に考えたのです。

また、前職では執行役員以上は有期契約で、毎年契約更新がある立場でした。自分が望まなくても会社の判断で更新されない可能性もあることから、人事からも「役員として働くなら、自分の市場価値を常に確認しておいた方がいい」と言われていたので、転職エージェントなどを通じて外の世界とも接点を持っていました。

そのなかで、外食企業をはじめ複数のオファーをいただいたのですが、当時は前職に残る選択をしていました。とはいえ、55歳という年齢と株主交代という環境変化は大きな転機で、ここで次世代にバトンを渡すのが会社にとっても良いと感じました。

サンマルクカフェからのお話をいただいたとき、「これまでのキャリアを総合的に活かし、挑戦できる環境だ」と思いました。正直、残る方がずっと楽だったと思います。でも私は前職の創業者の教えである、「簡単な道と難しい道があれば難しい方を選ぶ」と決めています。

今回も「やりたい・やりたくない」で決めたというより、「どちらがよりチャレンジングか」で判断し、その結果、サンマルクカフェのリーダーとなることを選びました。

 

就任時に店舗研修をされたとありましたが、全てのパン、サンドイッチが手作りだったこと以外に印象に残っていることはありますか?

「ゆず茶」が隠れ人気メニューなことが驚きましたね。店頭では瓶も売っているのですが、最初に見たとき、「こんな高いもの売れるわけないじゃないか」「中で使っているものをそのまま並べて、売れたらラッキーくらいの感覚で置いているんだろうな」と思いました。

ところが、実際にPOSデータを調べてみたら意外と売れていて驚きました。しかも、購入されているお客様をよく見ると、同じ方が3か月に1回くらいのペースでリピートしているケースが多いのです。何年か前には福袋に入れたこともあると聞きましたし、根強いファンが一定数いることが分かりました。

大きなブームがあるわけではないけれど、静かに支持されている商品だと知ったので、今後どこかのタイミングでキャンペーンを仕掛けてみたいと思っています。

そして、このゆず茶の存在をもっと多くの方に知っていただきたいと考えています。たまたま試してもらった方が「おいしい」と感じてリピートしてくれれば、今まで他店でフルーツティーを飲んでいた方の新たな選択肢にもなるはずです。そういう“トライアルのきっかけ”をつくるのが、次のチャレンジだと思っています。

 

では、経営者目線で見た時のサンマルクカフェの第一印象はどのようなものでしたか?

最初の印象として感じたのは、「真面目な会社だな」ということです。これはサンマルクカフェに限らず、グループ全体にも共通している印象です。社是にも「誠実」という言葉が掲げられていますが、その言葉どおり、皆さん本当に裏表がなく、実直で真面目な方が多いと感じました。

私自身は新参者として入社した立場なので、最初は当然ながら本音は見えにくいと思っていましたが、5〜6か月経った今でも印象は変わりません。これまでの職場経験からも、ここまでブレずに誠実さが浸透している組織というのは珍しいと感じています。

また、前職ではフランチャイズを担当しており、440社以上のオーナー企業や子会社など、さまざまな企業文化を見てきました。その経験と比べても、サンマルクカフェは非常に堅実で、誠実さが社風として根付いていると強く感じました。

一方で、組織としてはかなりコンサバティブな面もあります。もっとチャレンジしてもいいのでは、と感じる場面もありますが、裏を返せば、それだけ内部の結束力が強く、組織としての安定感があるということでもあります。

さらに、サンマルクカフェはプライム上場企業グループの事業会社ということもあり、しっかりとしたガバナンス体制が整っています。私が以前いた会社では東証二部上場までだったので、その点も大きな違いでした。

しかし、ガバナンスの強さとは裏腹に、現場の皆さんはとても誠実で、実直に業務に向き合っておられます。その文化が300店舗規模のチェーンを支え、さらにパスタ業態などのスピンアウト・社内ベンチャーのような挑戦も生んできたのだと実感しています。

数字的にも非常に堅実で、真面目さが会社の成長を支えてきたことがよくわかる会社、というのが第一印象でした。

 

社長就任後、どのようなご苦労がありましたか?

いい意味で予想を裏切られたことなのですが、抵抗勢力が思っていたより少なかったです。

もともとサンマルクカフェはオーナー企業であり、プロパー社員の比率も非常に高い会社です。私自身、前職で株主側にいた立場として「外から社長が来る」という状況がどう受け止められるかはよく理解していました。実際、私が以前いた環境でも「いくら頑張っても結局は外部からトップが来る」と感じていた人は少なくなく、そうした中で現場のモチベーションが下がることも見てきたので、ある程度の“抵抗”は覚悟していました。

さらに、前任も同様の経歴だったため、また外部から人が来たという受け止め方をされる可能性もあると考えていました。新しいリーダーが就任するときは、多かれ少なかれ前任との方向性の違いが出るものですし、それが抵抗勢力につながるケースも少なくありません。そのため、就任当初は様々状況を覚悟していました。

しかし、実際には表立った抵抗はほとんどなく、現場の声を直接聞いても、否定的な意見はあまり耳に入ってきませんでした。本心まではわかりませんが、少なくとも表面的な動きとしては非常にスムーズでした。

2025年4月に就任しましたが、同年の10月上旬には5か月で5年先までの事業計画を策定し、社員全体に共有する機会を持つことができました。当初は社内理解の醸成が必要になると考えていたのでこうしたプランニングは年明け以降、1年程かけて進めるつもりでいましたが、実際は、いわゆる「100日プラン」を3か月で完了し、その後たった2か月で主要な部分を固めることができました。

加えて、最後の1か月は、経営層・部門長・マーケティング・採用・営業といったセグメントごとに計画を深掘りし、各チームが主体的に肉付けをするフェーズに移行することができました。その結果、社内全体で合意形成したうえで、店舗の社員にも一貫したメッセージを届ける体制が整ったのです。

これは私ひとりで成し遂げたことではなく、本部のメンバーが同じ目線に立って参加してくれたことが非常に大きいと感じています。店舗と本部の信頼関係がもともと強かったこともあり、「トップダウンで変えられる」という感覚ではなく、「一緒に進める」という空気が自然に醸成されたことは、本当にいい意味での“予想外”でした。

一方で、シェアードサービスとしてのホールディングス側のガバナンス体制は想像以上にしっかりしていて、その分、思っていたよりもハードルが高い部分もあります。ここは今まさに、緊張感を持って双方が前向きに向き合っているところです。

 

規模も大きく、土台が固まっている会社だからこそ、新たなチャレンジには慎重に判断されるんですね

そうですね。グループ内には全体の規律やルールを定めている管理本部があり、そこがしっかりとした仕組みを構築しています。

ただ、レストランを前提に作られた仕組みがカフェにフィットしないケースがあるので、運用面などをもう少し柔軟に変えていきたいと提案はしています。実際、一部は変更できたものもありますが、グループ全体の事情もあるので「内容は理解できるけれど、今は待ってほしい」という対応になることも多いものの完全に門前払いされるわけではありません。きちんと話は聞いてもらえるし、理解もしていただいているので、時間をかけて少しずつ形を変えていくフェーズだと感じています。

 

意見や提案を聞いてもらえるのは良い環境ですね

はい。本当にそこは誠実さが社風として根付いている部分だと感じます。

例えば、他の会社だったら「外から来た事業会社の社長が何を言ってるんだ」といった空気が出てもおかしくない場面でも、そういう雰囲気はまったくありません。「その意図は何ですか?」としっかりと背景を確認してくれたり、「それは過去にこういう経緯があって今のルールになっているんです」と丁寧に説明してくれます。

そのお陰でこちらも「今あるルールの中でどう運用を工夫できるか」という方向に自然と切り替えられますし、ルールそのものをすぐに変えるのは難しくても、運用面の工夫で解決できることも多くありました。

現在は、そうした提案をホールディングス側と壁打ちのように繰り返している段階です。こちらの声を聞いてもらえるという環境は、とてもありがたいと感じています。

 

経営者にしかできない仕事ですし、現場第一で動かれているエピソードを聞いて、小山社長がとても誠実に仕事に向き合っていらっしゃることがよく理解できました

やはりルールを守ること自体が目的化してしまっているケースは正直あると思います。しかし本来、ルールは全体をより良くするためにあるものであって、時代や実態にそぐわなくなったら変えれば問題ないと思います。もちろん、法令遵守やコンプライアンスの部分は別ですが、それに準拠したうえでの社内規定やルールであれば、必要に応じて見直すべきです。

本来であれば、事業会社として分社化した時点で、それぞれの業態に合わせたルールや仕組みに分けるのが自然だからこそ、私は、「同じやり方を求めるのであれば、それは事業部でいいじゃないですか。法人格を分けた意味がないですよね」という話を正直にしています。もちろん、グループ全体としての統制やカフェだけ勝手に動かれては困るという意識があるのも理解していますので、そこはしっかり調整しながら、良い未来に向けて動いています。

しかし大前提としてあるのは、「現場やお客様にとってより良い形になるのであれば、変える努力を惜しまない」ということです。ほんの少しのルールの変更で提供できる価値が大きく改善することがあるので、そこは経営者として、現場の声をしっかり吸い上げて、必要な交渉をしていきます。

 

今後の展望について教えてください

今後は、ブランドポジションを「ど真ん中戦略」として明確に打ち出していきます。もともと、ニューヨークのホテルラウンジをイメージした空間づくりを進めてきたブランドですが、今後は“駅前の利便性”よりも、お客様の生活動線そのものにブランドを寄り添わせていく方向を目指したいと考えています。

店舗数としては、5年後に500店舗という目標を掲げています。まずは来期、現在の284店舗から309店舗体制へと拡大し、その先にかつて最大だった408店舗を超えることを視野に入れています。前任の頃はコロナ禍もあり不採算店舗を閉じて効率化を徹底されていましたが、そこから再び攻めに転じ、V字回復を目指すフェーズに入るという位置づけです。

この「攻め」の象徴となるのが、路面店の再出店です。ショッピングセンター中心の出店が続いてきた背景には、かつて不採算と判断された多くの路面店の撤退があります。しかし、過去には路面店だけで400店舗規模を支えてきた実績もあります。そのため、改めてそこに再挑戦していくことが成長のカギになると考えています。

 

路面店の再出店について、どのような戦略を考えていらっしゃるのか教えてください

これまでサンマルクカフェはショッピングセンターへの出店が中心だったこともあり、売上構造がやや“守られた環境”に偏っていました。ショッピングセンターの中では一定の集客が見込めますが、路面店ではその分、家賃や人件費といった固定費の負担が大きくなるため、売上をワンランク、ツーランク引き上げる必要があります。

そのため、現在、路面店向けの新しいメニュー戦略のテストを行っています。具体的には、イオン相模原店を改装し、「&茶(アンドチャ)」という新コンセプトを導入しました。これは「お茶専門店」を作るのではなく、既存のサンマルクカフェのメニューに“お茶のメニュー”を追加し、新たな顧客層を取り込むことを狙った取り組みです。

既存業態では主に40〜50代の女性のお客様が中心でしたが、「&茶」を導入したことで20代の女性の来店も増えており、すでに手応えを感じています。駅前や路面店では、幅広い年代の方が行き交うため、コーヒーを飲む人だけでなく、お茶を好む方、さらにはコーヒーが苦手な方にも来店していただけるようなメニュー構成が重要になります。

「コーヒーを飲む人」と「飲めない人」が一緒に来られる場をつくる。これが、これからのサンマルクカフェの路面店戦略の大きな柱です。実際、「&茶」の導入によって、想定以上の集客効果が出ており、路面店出店への手応えが高まっています。こうした新しいメニュー戦略と出店戦略を組み合わせることで、ブランド全体の成長をさらに加速させていきたいと考えています。

 

新しいメニューが増えるのは良いことですが、同時に課題も出てくると思います。どのように対策をされていらっしゃいますか?

メニュー数が増え続けている中で、厨房スペースや動線は昔と変わっていない、という課題があります。入社当初の店舗研修では、従業員から「上下動が多くて膝が痛い」という声をいただきました。こうした声を踏まえ、オペレーションの簡素化と標準化を進めることが不可欠だと感じています。

私たちが目指しているのは、これまで大切にしてきた“店内手作り”や“フレッシュな提供”といったサンマルクカフェの強みを失うことではなく、それを未来に向けてしっかりと継続していくための取り組みです。

例えば、設備投資もその一環です。上下の動きが多く、作業負荷が大きいという声をきっかけに、ピザ屋さんのトッピング台のような冷蔵機能付きの「ホットサンドステーション」を開発・導入しました。また、スムージーについても、従来の手作業ではなく、自動化できるマシンを導入し、最終の仕上げだけ人が行うような仕組みに変えていこうとしています。

さらに、オペレーションをマニュアルではなく動画でガイドできるようにするなど、新しく入ってくる方でもスムーズに現場に馴染めるような仕組みづくりも進めています。

「簡素化」という言葉を使っていますが、これは単に作業を減らすという話ではなく、現場で働くスタッフがより負担なく、効率的に、高い品質を保ちながらサービスを提供できる環境を整えることを意味しています。お客様により新鮮で質の高い商品を、よりスピーディに提供できるようになることが差別化につながると考えてのことです。

そして、そのための最初の組織改革として、事業推進室を「オペレーション開発部」に改編しました。従来は“なんでも屋”のような立ち位置だったチームを、0→1でオペレーションを開発するプロジェクト部隊に位置づけ、メンバー全員をプロジェクトマネージャー(PM)として育成しています。彼らが中心となって、デジタルサイネージやセルフレジなど新しい仕組みを実装するための“種”を仕込んでおり、それが今、芽を出し始めているところです。今後は営業部門にバトンを渡し、現場で実装・定着させていくフェーズに入ります。オペレーション開発部は、全国展開するかどうかの意思決定を私と一体で進める直轄の組織です。ここで仕込んだ仕組みを磨き上げ、ブランド全体を次のステージへ引き上げていきます。

 

最後に他の経営者におすすめの本のご紹介をお願いいたします

私自身、ファストフード業界が長いので、いわゆるデジタルDXやIoTといったトレンドには敏感でありつつも、同時に“アナログ”の力も大事にしてきました。サンマルクカフェでも、デジタルとアナログの両立をどう実現するかが、これからの大きなテーマだと感じています。

ファストフード業界でも、デジタルを積極的に活用しながら、店内調理というアナログの強みをしっかり生かしているチェーンはまだそう多くありません。だからこそ、この「両輪」をうまく回せるチェーンは非常に強いと思います。

そうした考え方のきっかけになったのが、『両利きの経営』という本です。ご存じの方も多いと思いますが、既存事業をしっかりと守りながら、新しい挑戦も並行して進める「両利きの組織」をどう作るか、という内容が書かれています。

新規事業というのは、多くの企業で「片手間」になってしまいがちですが、それでは成功しません。経営者自身が橋渡し役となり、既存事業を担うチームと新しいチャレンジを担うチームをしっかりつなぎ、双方が対立するのではなく、補い合える状態をつくることが重要です。

この本を通じて、「2兎を追ってもいい」「むしろ現代の経営では、両立が求められる」という考え方を強く意識するようになりました。既存のアナログの良さを活かしつつ、新しいデジタルの仕組みも導入する。そのバランスをどう取るかという悩みを抱えている経営者の方にとって、この本は突破口になる一冊だと思います。私自身も、ベンチャーの経営者や成長期の企業の方におすすめすることが多い本ですので、ぜひご一読ください。

『両利きの経営』チャールズ・A. オライリー (著), マイケル・L. タッシュマン (著), 入山 章栄 (翻訳), 渡部 典子 (翻訳)

https://www.amazon.co.jp/dp/4492534083

 

投稿者プロフィール

『社長の履歴書』編集部
『社長の履歴書』編集部
企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。

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