今回は株式会社図書館流通センター代表、谷一 文子氏にお話を伺ってきました。
「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。
ぜひご覧ください!
会社名称 | 株式会社図書館流通センター |
代表者 | 谷一 文子 |
設立 | 1979年 (昭和54年) 12月20日 |
主な事業 | 図書館総合支援業務 |
社員数 | 10,114名(2025年1月期) |
会社所在地 | 東京都文京区大塚三丁目1番1号 |
会社HP | https://www.trc.co.jp/ |
事業内容を教えてください
株式会社図書館流通センター(以下TRC)は1979年の創立以来、図書館および図書館を利用するすべての人に向けて、図書館に関するあらゆるサービスを提供しています。
当社の基幹事業はTRC MARCの作成販売と図書館運営受託業務です。TRC MARCは公共図書館の89%が利用している図書館のための書誌データベースです。、また、図書館専用の書店として本の在庫、装備、納入を行っています。1996年から始まった図書館運営受託業務については、2025年現在で9000名以上のスタッフが全国の公共・学校図書館で司書や図書館員として働いています。
当社では図書館を「人類の英知を未来へと生かす知識と情報の宝庫」と考え、地域の知の拠点として機能することを目指しています。図書館を利用するすべての人々が教養を深め、自らの課題を解決し、心身ともに健康な市民として自立し、働き、暮らせるよう、サービスを通じて地域社会に貢献しています。
地域の課題解決において、図書館は具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか?
最近の図書館はただ本を読むだけの場所ではなく、ホールがあったり交流できるスペースがあったりと、公民館のような役割も果たしています。お子様用の遊び場もあったり、音楽を楽しめたりと、利用される方々のニーズを幅広く満たせるような場所に変化してきました。時間がかかる取り組みではありますが、図書館を利用することによって人々の心が豊かになり、知識が増え、それが巡り巡って地域の発展に役立つと考えています。
TRCは情報、環境、教育、運営と4つの視点から様々な図書館のためのツール・ソリューションを提供されていらっしゃいますが、現在特に注力しているものはありますか?
軽自動車の移動図書館車「LiBOON(リブーン)」と公共図書館内で書籍や文具、地域商材を販売する新しい形のショップ「TOSHOP(トショップ)」に注力しています。
TOSHOPはまだ実証実験の段階ではありますが、どちらも手ごたえを感じている取り組みです。
LiBOONは「すべての人に図書館サービスを届けたい」という思いで始まった、軽自動車の移動図書館です。誰ひとり取り残さない図書館サービスを実現したいと考え、過疎地や島嶼部においても小回りが利き、誰もが楽に運転でき、かつ維持費の負担が軽い車体で書籍を運べる仕様にしました。
コロナ禍で電子図書館を利用される方が爆発的に増えましたが、状況が落ち着きを見せると紙の本を求める声が多くありました。しかしながら、地域によっては全ての方が気軽に図書館にアクセスすることが難しい場合があるため、LiBOONの普及によって図書館サービスの平準化の実現ができるよう注力しています。いずれは「庭先まで本を届ける」ようなサービスに育てていきたいです。
そしてTOSHOPは和歌山県海南市、愛知県日進市、石川県野々市市の公共図書館3館で段階的に実証実験を行っています。図書館を「本を借りるだけの場所」から「文化と人が交わるコミュニティセンター」へと進化させることを目的とした取り組みで、書籍を中心に文具雑貨や日用品、地域ならではの逸品などを取りそろえ、図書館に足を運ぶ新たなきっかけを創出することを目指しています。また、これまで図書館を利用しなかった層にもアプローチをすることで、読書人口の拡大に寄与することも期待しています。
LiBOON、TOSHOPについては、下記URLをご参照ください。
LiBOON:https://www.trc.co.jp/solution/liboon.html
TOSHOP:https://www.trc.co.jp/topics/event/e_toshop.html
ここからは谷一社長のことをお聞かせください。学生時代の思い出はありますか?
私は岡山県で生まれ育ちました。とても活発な少女で、走ることなら誰にも負けなかったですね。
転機になったのは、中学3年生の時に熊本県八代市へ転校したことです。方言の壁があり、最初は先生が何を言っているのかを理解することが全くできませんでした。当時の私にとっては大きなカルチャーショックでしたし、最初はよそ者として扱われていましたが、ここで過ごすうちに人の温かさに触れ、とても仲良くなりました。1学期、2学期と約10か月しかいませんでしたが、当時の同級生たちとは今でも親交があります。
中学3年生の3学期はどこで暮らしていらっしゃったんですか?
また岡山に戻りました。高校受験直前でしたし、熊本県とは入試科目が異なるためライバルとの差を埋めるのが大変でしたが、無事に県立の進学校へ入ることができました。
中高生の頃は英語が最も得意な科目でした。そのため、留学したい、英語を使った仕事がしたい、ジャーナリストになりたいと思っていました。
しかし、高校生活では人間関係に悩んだことから人の心について興味を持ち、上智大学文学部心理学科で臨床心理学を学びました。
大学時代に学んだことで印象に残っていることはありますか?
2つあります。
1つは教授陣が豪華だったことです。
フランクルの『夜と霧』を翻訳された霜山 徳爾先生のゼミで学び、他にも小説家で精神科医の加賀乙彦先生など、きら星のような先生方がいらっしゃる環境で学ぶことができ、本当にこの大学で学んで良かったと思っています。
2つ目はゼミで霜山先生から言われた言葉です。「これから皆さんは社会人になりますが、必ずしも全員が専門的な職業に就くわけではありません。社会人になると必ず様々なことが起こりますが、これらは全て臨床だと思えば解決できます。」と教えていただきました。
授業はとてもハードでしたが、世界トップクラスの先生方のスピード感に着いていくために死に物狂いで勉強したのは良い経験だったと思います。世はまさにディスコブームで友人たちが新宿や六本木に出かける中、私は臨床心理の授業だけでなく司書の資格取得も目指していたので、寮と大学の往復だけの大学生活を送っていました。
卒業後のキャリアを教えてください
大学時代の3年間で必要な単位を取り終え、4年生の時には既に岡山の倉敷中央病院の精神科医のもとで勉強させていただきながら卒論を書き、卒業後は同病院で臨床心理士として働き始めます。
しかし、次第に自分はこの仕事に向いていないのではと考え込むようになりました。本来であれば患者さんの心の深い部分に入り込みすぎないよう上手く距離をとりながら仕事をするべきなのですが、私は心が健康過ぎたのか影響をもろに受けてしまい、自分の心が揺さぶられることが多々ありました。
その後、病院の再編で精神科が無くなり心療内科となったことで心の整理がつき、退職しました。
その後はどのようなお仕事を始められたのでしょうか?
岡山市立中央図書館で司書として働き始めました。
大学時代は司書になるつもりはなく、未亡人になった時に使えるかなと思って司書の勉強をしていたのですが、臨床心理士の退職後、たまたま司書の募集をしている自治体があり、試験を受けることにしました。最初の自治体では何も準備をせずに受けたので落ちてしまいましたが、別の自治体の募集で無事に試験に合格し、嘱託として2年間学校司書を経験しました。
司書の仕事を始めたとき、精神的に負担の大きい仕事だった臨床心理士の時と比べて「世の中はなんて明るいんだ」と感動したのを覚えています。
その後、主人の転勤で東京へ引っ越し、TRCに入社しました。
1991年の入社当時はどのようなキャリアビジョンを描いていらっしゃいましたか?
当時はキャリアアップしたいというよりは、とにかく淡々と目の前の仕事をこなしていこうと思っていましたね。
入社後はTRC MARCを作成する部署に配属されました。前職でも目録作成はしていたので問題なくこなせると思っていたのですが、TRCでは10倍以上の量を限られた時間の中でこなさなければいけなかったため、慣れるまでが大変でした。
また、同期が22歳で私だけ32歳だったことから、上長に「普通はこの仕事をこなせるようになるまでに1年はかかるけど、あなたはもう少しかかるかもしれないわね」と言われてしまいました。その時、「絶対に半年でものにしてやる」と闘志が燃えてきました。
業務に向き不向きはありましたが、とにかく真面目に一生懸命目の前の仕事と向き合いました。
思い出に残っている仕事はありますか?
大学図書館のデータベースを作る部門の立ち上げが特に思い出に残っています。
当時はデータベースの作成が民間に開放されていなかったため、ノウハウを大学の方に教えていただく必要がありました。事業が本格的に始まるまでの2か月間でこの仕事ができるようになるように、という会社からの指示だったため、必死に業務を覚えました。
その後は様々な大学での仕事が始まり怒涛の日々を送りました。
例えば、2万冊を3月末までにデータベース化するという仕事がありました。
しかし仕事を受注してから納品まで数週間しか作業期間がなく、システムへの入力も8時から18時までと制限があるため、どのように工夫をすれば納期を守れるかを考えなければいけませんでした。あの時はあらゆる人を動員しましたし、時間内は入力作業だけに集中できるよう、校正や修正作業はそれ以外の時間で終えておくなど仕組みを整えました。
ふり返ると、この部門での仕事を通して、「納期を絶対に守る」、「無理でもとにかくやれる方法を考える」ことを学びました。無理だと思ってもとにかく諦めずにできる方法を探し、緻密に組み立てをして乗り切ったことで自信にも繋がりましたし、お客様から信頼を得ることができました。
お客様の信頼を絶対に裏切らないことがこの仕事の本質なのだと実感しましたし、言い訳しないでとにかくやりきることが、私の人生のなかで重要なポイントになりました。
TRCの社長就任前に経営に関わるお仕事はされていたのでしょうか?
前社長の時に営業デスクをしており、その時に会社全体の業務内容や動きを把握しました。
その後、2004年4月に図書館サポート事業の部長になり、2か月後の6月には当時TRCの子会社だったTRCサポートアンドサービスの代表に就任しました。
サポート事業の立ち上げの際には現場での指導だけでなく、売上の回復にも尽力しました。
当時売上は8億円ありましたが、損益分岐点を計算したところ12億円なければ赤字になることがわかりました。事業が始まったばかりとはいえ誰も数字を見ている人がいなかったことから、とにかくトントンになるまでは頑張ろうと思い制度や仕組みを整えたところ、無事に業績を回復させることができました。
そして、この成果が認められたことから、吸収合併に伴ってTRCの代表取締役に就任しました。
経営者として大変だったことは何でしょうか?
当社はとても恵まれており、創業者が無借金で経営ができるようにビジネススキームを確立してくださったので、マネタイズで困ることはありませんでした。
しかし、事業として危機があったのは人件費を大幅に上げたタイミングです。利益が危機的なほど下がってしまいました。
その時、1人が100ではなく120以上のパフォーマンスが発揮できる環境を作るため、業務改善を行いました。
これまでは過去の経験に基づき、『これくらいの人数がいれば業務が回るだろう』といういわばどんぶり勘定な判断をしていた部分もありましたが、より厳密に適正な人員配置を検討し、どうすればより従業員の時間を有効活用できるかを考え直しました。
私たちの業界ではは、従業員のリストラは選択肢にありません。そのため、従業員ひとりひとりのパフォーマンス向上と個々の才能を最大限に生かすことが重要な鍵となっています。。
しかし、業務改善を行うと、どうしても不満の声も出てきてしまいます。
業務改善は意識改革でもあるため、功績を表彰するスタッフ感謝の会や、お誕生日カードの送付など、従業員の日頃の苦労を労い認める取り組みも行いました。お誕生日カードは、スタッフが9000名を越えた現在では廃止していますが、以前お渡していた方達からは「今でも持っています」と言っていただけており嬉しいです。
谷一社長はコロナ禍で学び直しをされていらっしゃいますが、なぜ大学院に進もうと思われたのですか?
コロナ前には全国の自治体へ、表敬や図書館の視察など出張が重なっていました。コロナ禍で一変し出張や会食が無くなったことで、私は一体何をしたら良いのかと手持無沙汰な気持ちになりました。、時間がある今改めて図書館・情報学について学び直したいと考え、慶應義塾大学大学院情報資源分野で2年間研究しました。
これは私らしい考えなのですが、大学時代は常に勉強漬けだったので、大学院では当時できなかった楽しいキャンパスライフが送れるかもしれないと内心期待していました。しかし、実際は大学時代よりも厳しく、徹夜で課題をこなす日々でした。
大学院で学んだ内容は直接事業に活用できるものばかりではありませんでしたが、新しい知識や最先端の情報に触れたことで、確実に視野が広がったと感じています。
今後のご展望について教えてください
現在の基幹事業に加え、新たな事業の柱を見つけたいと考えています。
図書館を利用している方はもちろん、まだ利用されていない方に対しても、図書館に何が求められているのかを的確に把握し、図書館という場を通じてできることを積極的に広げていきたいと考えています。また、図書館の現場から生まれる課題は社会の課題でもあると認識し、図書館でできることと、図書館から解決する道筋をこれからも探し続けてまいります。
経営者におすすめの本を教えてください
小倉昌男さんの『経営学』がおすすめです。
経営者になった時にありとあらゆるビジネス書を読みましたが、一番刺さったのはこの本です。
「サービスが先、利益は後からついてくる」という部分が特に胸打たれました。
この本をを通じて、図書館で良いサービスを提供することで利用者に認められ、その結果として自治体からの予算確保にもつながるという考え方を学びました。
また、拙著『これからの図書館 まちとひとが豊かになるしかけ』もぜひ多くの方に読んでいただきたい1冊です。
コロナ前に執筆、出版した本ですが、図書館が人と町を幸せにする場所であるという考えはずっと変わっていません。大学院では図書館評価について研究し、来館者数や貸出数といった数値指標ではなく、図書館を利用することで人々や地域がどう変化するか経済的な効果やコミュニティ作成といった質的な変化をどのように評価するかを考えていました。
図書館の過去、今、未来、そして使い倒し方を余すところなく語っていますので、ぜひご一読ください。
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投稿者プロフィール

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企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。
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