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株式会社Wewil代表 杉浦 直樹氏

  • 12/04/2025
  • 11/26/2025
  • 人材
  • 1回

今回は株式会社Wewil代表、杉浦直樹氏にお話を伺ってきました。

「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。

ぜひご覧ください!

 

会社名称 株式会社Wewil
代表者 杉浦直樹
設立 2017年10月2日
主な事業 ・業務管理 S a a S「SYNUPS」の提供

・ バックオフィス運営・運営支援

・ バックオフィス人材育成

・ S a a S導入サポートサービス

・ 業務改善コンサルティング

社員数 63(取材時)
会社所在地 静岡県浜松市中央区高林1-8-43 The Garage for Startups
会社HP https://wewill.jp/

 

事業紹介をお願いします

株式会社Wewilは「強いバックオフィスを今すぐ手に入れる」をコンセプトに、バックオフィス業務の可視化と分業化を支援するサービスを提供しています。
私たちが行っているのは、大きく分けて 「業務手順とナレッジ(=文脈・コンテキスト)の可視化」 と 「分業体制の構築」 の2つです。属人化しがちなバックオフィス業務を構造的に解消し、誰でも正しく運用できる状態をつくることを目指しています。

その中心となるのが、自社開発のSaaS「SYNUPS(シナプス)」です。
SYNUPSを活用し、企業内に眠る“文脈”──つまり人が頭の中で処理している判断基準や業務手順、ナレッジを徹底的に見える化し、管理できる状態にします。さらに、見える化された業務は、当社がアウトソーシングとして引き継ぐことも可能です。

 

バックオフィス業務が属人化する要因は、大きく2つの要素に分かれます。

  1. 専門知識(簿記、会計、法令、システム運用など)
  2. 文脈(業務手順、社内ルール、過去の判断との整合性、人間関係・力学など)

このうち専門知識は体系化されているため属人化しにくいのですが、「文脈」は個人の頭の中に依存しやすく、ここに属人化の本質的な課題が存在します。
当社はこの“文脈の個人所有化”を解消することで、バックオフィスの再現性・引き継ぎ・分業体制構築を実現し、企業の生産性を高める仕組みを提供しています。

具体的には、SYNUPSで業務を定義し可視化した上で、必要に応じて当社がアウトソーシングまで行うという「可視化 × アウトソーシング」の一気通貫モデルで支援しています。

 

お客様はどのようなことにお困りなのでしょうか?

近年は、とくに「業務可視化」へのニーズが大きく高まっています。
当社の提供する SYNUPS を活用し、バックオフィス業務における手順やナレッジ(文脈情報)をすべて見える化し、分業設計につなげるという工程が、ほぼすべての企業に必要とされているためです。

具体的には、業務を構成する1つひとつの手順に対して、
・専門性の高さ
・コミュニケーション密度
などをもとにA/B/C/Dに分類し、「どの業務は分業できるのか」「どこは社内に残すべきか」を明確化します。

たとえば、これまで特定社員に依存していた業務が、可視化によって「この部分だけアウトソース可能」「ここは権限上、社内管理にする必要がある」と判断できるようになります。
この“属人化の解消”こそ、最も多く寄せられるニーズです。

さらに、当社のSYNUPSを企業と共有することで、社員が退職した場合でも業務がストップせず、そのまま当社が引き継げる体制が整う点も評価されています。採用がうまく進まない場合には、当社が業務を受託し、採用が完了した時点で再び社内に戻すといった柔軟な運用も可能です。

また、当社はフルリモート体制で全国に社員が在籍しているため、「災害時にも止まらないバックオフィス」というリスク分散にも寄与しています。

現在約100社のバックオフィスを支援していることから、業務改善ノウハウが蓄積されている点も大きな強みです。

そしてもうひとつ重要なのが、将来のAIワーカー導入に備えられるという点です。
バックオフィス領域でAIが実用化されるためには、
・業務手順(ワークフロー)
・ナレッジデータベース
という“コンテキスト(文脈情報)”が揃っている必要があります。
SYNUPSで業務可視化を行うことで、これらをあらかじめ整備でき、AI活用にスムーズに移行できる土台づくりが可能になります。

 

 

「バックオフィスは“コスト”ではなく“投資”」であること社会に浸透させるためには、まず経営者の意識改革が必要だと感じます。この部分は普段どのようにお話をされているのでしょうか?

「バックオフィスはコストである」という認識は、実は日本特有の歴史的背景によって生まれたものだと考えています。
私自身社会に出てから30年が経ちますが、この期間はまさに“失われた30年”と呼ばれる停滞期でした。その前の世代には「失敗を最小化し、とにかく量産することで業績が伸びる」という強烈な成功体験があり、企業にとってバックオフィスは“変化しないことを維持する機能”として捉えられてきましたが、その価値観は 日本の長い企業史の中では、むしろ例外的 だったと考えています。

本来、バックオフィス業務は 統制・ガバナンスを整えることで事業成長を支える“投資領域” であり、政治や行政の歴史を見ても「事務体制が強い国ほど国家として発展してきた」という事実があります。ところが高度成長期以降、「変化せず、効率化し、失敗を避ける」ことが正義となり、結果としてバックオフィスはコストセンター化してしまいました。
しかし今は真逆の時代です。

  • 市場環境は高速で変化し続ける
  • AIやSaaSを含むテクノロジーの進化は止まらない
  • 法制度や会計基準、労務基準も頻繁にアップデートされる
  • 新規事業や事業再構築には“挑戦と検証”が不可欠

こうした環境下では「変化に弱いバックオフィス」は事業成長のボトルネックになり、強いバックオフィスがなければ企業は挑戦できず、スケールもできません。

実際、私が税理士として数百社を見てきた中でも、成長する企業には共通点があります。
それは例外なく 「統制と分業が成立しており、バックオフィスが強い」 ということです。
5億の壁、10億の壁、20億の壁、100億の壁。そのすべてを突破する企業は、ガバナンスとオペレーションを武器にしています。

つまり、バックオフィスが強い企業ほど挑戦できる、挑戦できる企業ほど遠くまで行ける、という構造になっているのです。

だからこそ、バックオフィスは「コスト削減の対象」ではなく、“変化に強い組織をつくるための投資”と捉え直すべき時代に入っている と考えています。

 

10月2日に公開された、「スタートアップ企業の経営者層769名に聞いた「バックオフィスの現状と課題」に関する意識調査」から見えたことを教えてください

今回の調査はスタートアップ企業に対象を絞って行ったのですが、想定よりも多くの企業がバックオフィスを「コスト」として捉えており、軽視している実態が明らかになりました。

もちろん、創業期はまず売上をつくらなければ事業が成り立たないため、トラクション優先という判断は理解できます。ただ一方で、“売上をつくるための土台としてのバックオフィス”という視点が想像以上に欠落しているという点は、私自身にとっても鮮明に可視化された結果でした。

とはいえ、スタートアップにとってバックオフィスが投資対象として見えにくいのは事実です。
「どうせ必要コストとして払うのであれば、それを未来につながる投資に変えられる方がいい」という考え方が広がっていない──それが今回の調査で得た大きな示唆でした。

必要経費としてのバックオフィス
未来の成長に寄与するバックオフィス

この“2つの価値を同時に得られる仕組み”をつくれるかどうかが、私たちの提供価値になるとそう気づかされたことで、Wewillとしても 「必要コストを未来の投資に転換できるバックオフィス設計」 をさらに磨いていく必要性を強く感じています。

スタートアップは “今の正しさ” だけで走ると、スケールフェーズで必ず壁にぶつかります。
だからこそ、“今の運用がそのまま未来の資産になる仕組み” をサービスとして実装していくことが、私たちの役割だと捉えています。

調査結果の詳細はこちらをご覧ください→https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000080502.html

 

2025年10月22日に実施されたラウンドテーブルでは、「創業初期はバックオフィスを過度に整備する必要はない」と仰っていましたが、企業が成長フェーズに入り、IPOを視野に入れ始める前段階から社内統制を整えることが重要になる理由について、改めてお聞かせいただけますか?

 

 

創業直後のフェーズでは、バックオフィスを過度に整備する必要はありません。

むしろ、起業家自身が事業づくりに集中すべき段階であり、「創業者の負担が限界になる」のはある意味必然です。ここは割り切ってよい部分だと思っています。

しかし、事業が動き出し資金調達を行うタイミング、いわゆる CPF(Corporate Proof of Feasibility)フェーズ 以降になると状況は変わります。売上や取引が増え、請求・支払・契約管理といった事務業務が一気に押し寄せてくるため、ここで多くのスタートアップが 「業務立ち上げ不全リスク」 に直面するのです。

多くの場合、この時期にパート社員や事務担当を採用して対応しようとするのですが、属人化や運用のガチャ化が発生しやすく、後に深刻な内部統制課題へとつながります。

また一般的に、IPO準備フェーズに入ってから統制を整えはじめる企業が多いのですが、実際にはその 「少し手前」から設計を開始しておくことが最も合理的です。理由はシンプルで、後付けで統制を整えるほどコストも工数も跳ね上がるからです。

逆に、CPF〜PSF(Product Solution Fit)段階で最低限のバックオフィス基盤を整えておけば 「その後の全フェーズで無駄にならない資産として積み上がる」ことができます。

そして、私たちが支援すべきポイントはまさにこのタイミングです。

「最小コストで構築しつつ、後のIPOフェーズでもそのまま使える仕組みをつくる」

これを実現するために、私たちは “可視化された業務手順とナレッジを資産化する” というアプローチを取っています。

属人化したバックオフィスを後からやり直すのではなく、最初から“無駄にならない設計”で構築する。こここそが最大の提供価値だと考えています。

 

スタートアップ企業における「業務立ち上げ不全リスク」とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか? また、そのリスクをどのように対処していくべきかについて、お聞かせください

スタートアップの創業フェーズでは、事業立ち上げに伴い業務が急増し、経営者や少数の創業メンバーに大きな負荷がかかります。とくにアイディエーションの段階を過ぎ、事業が具体化し始めると、請求処理や支払い、管理部門の整備など、バックオフィス業務の運用が必須となります。

ところが、現場で業務を支える人材は「何でも屋」的に複数業務を兼任していることが多く、しかも日々の業務フローはスタートアップ特有のスピードで変化していきます。この段階でよく起こるのが、“バックオフィスのオペレーション不全”です。「請求書を出したのに入金が確認できていない」「支払い管理が追いついておらず資金繰りの見通しが立たない」といった状況が頻発します。

さらに、その不全を補うように“頑張り屋”の社員が手作業で業務を支えるケースが少なくありません。しかし、この属人的な対応は、企業内に暗黙知(コンテキスト)が蓄積していく一方で、「その人が離職したら回らなくなる」というリスクを生み、将来的にブラックボックス化していきます。

この問題が特に深刻になるのは、事業成長が軌道に乗って資金調達を行い、PMF(Product Market Fit)に向かっている時期です。成長スピードが速いほど、経理や法務などのガバナンス体制も同時に整えていかなければならず、監査法人や証券会社からは「最低限の内部統制」の整備を求められます。

とくに求められるのが以下の2点です。

  • お金の統制(職務権限に基づく承認と記録)
  • 人の統制(残業代や人事・労務管理の適正化)

ところが、多くのスタートアップにとって、これらの整備は“初めての経験”です。結果として内部統制が組めずに監査法人のショートレビューで引っかかる、あるいは「対応できる人材が社内にいない」といった課題が生まれやすいのです。

そこで当社では、創業直後ではなく「業務が立ち上がりはじめた段階」で支援に入ることにしています。経理・労務・総務といったバックオフィス機能を段階的に整備し、創業者の暗黙知で回っていた業務を「SYNPUS」という仕組みの中に可視化・共有する。その上で、IPO準備や監査対応に必要なオペレーションへとスムーズに接続するという流れを設計していきます。

上場を見据えたガバナンスと成長フェーズに伴う業務負荷を切り離し、「最低限のコストで最大限スケールできるバックオフィス」がつくれるようにする。この視点が重要だと考えています。

 

IPOを目指す企業は通常の経理業務とIPO対応の経理業務が大きく異なるため、社内も社外も混乱してしまうケースがあると伺います。そうした課題に対し、御社がどのように支援されているのかお聞かせください

IPOに向けたプロセスは単なる監査対応ではなく、「企業として強く成長していくための基盤づくり」です。実際に上場を経験された経営者の多くが「IPO準備によって会社が鍛えられた」と語るように、分業体制やガバナンスを整えていく過程は、企業の成長に欠かせないステップだと感じています。

そこで私たちは、IPO準備の支援をスタートアップ段階から一貫して行うことで、内部統制や職務権限、承認フローなどの土台を最小コストで整え、スムーズに監査法人や証券会社と連携できる状態をつくります。この「IPOの現場を知る経験値」こそが、クライアントにとっても、当社の社員にとっても、大きな資産になります。

さらに、私たちがIPO支援を通じて蓄積した知見は、中堅企業向けの経営基盤構築やM&A後のPMI(統合作業)などにも応用可能です。つまり、IPOに限らず、「企業がさらに大きく飛躍していくフェーズ」に必要なバックオフィスの整備全般に貢献することができます。

加えて、従業員にとっても難易度の高い案件に挑戦できる環境がキャリア形成につながるからこそ、私たちは「企業の成長を支えること」と「社員の成長を支援すること」を同時に実現するために、IPO支援やガバナンス整備などへの積極的な取り組みを続けています。

 

創業家や親族が経理業務を担ってきた企業では、属人化が進みやすく次世代への事業承継や100年企業化の妨げになるケースも多いかと思います。こうした「家族依存型バックオフィス」の課題について、どのようにお考えでしょうか?

老舗企業や家業系企業から特に多いご相談が、「お母さまやおばさま、番頭さんが経理を長年担当してきたものの、引退のタイミングで業務が引き継げない」というものです。長年同じ人が業務を担ってきたことで、会社独自の判断基準や処理の仕方といった“文脈(コンテキスト)”が、すべて個人の頭の中に蓄積されてしまう。これがまさに属人化の本質であり、事業承継や次世代経営における大きなボトルネックになります。

弊社が提供している「SYNUPS」は、この“文脈”を可視化し、業務手順とナレッジを分解してプラットフォーム上に蓄積できる点が特徴です。属人化していたバックオフィス業務を「見える化 → 難易度別に分解 → 分業設計」という流れで構造化することで、番頭さんや家族が担っていた業務を徐々に別のメンバーへ移管していけるようになります。

また、最近では「家族が手伝う前提で成り立っていたバックオフィス」が機能しなくなりつつある、という社会的変化も感じています。かつては家族経営=家族が業務を支える形が一般的でしたが、今は必ずしも家族が事務・経理を担う時代ではありません。さらに、従業員にいきなりお金周りを任せるのもリスクが高いため、「社内でも家族でもなく、信頼できる外部パートナーに委ねたい」というニーズが急速に増えています。

そうした状況の中で、弊社は「第3の選択肢」として、事業承継に耐えうるバックオフィスの仕組みづくりを支援しています。属人化を解消しながら、企業文化や判断基準といった“暗黙知”まで含めて引き継げる状態をつくることが、100年先まで続く企業づくりにおいて非常に重要だと考えています。

 

ここからは杉浦社長のことをお聞かせください。ご経歴を拝見して気になったのですが、大学では新聞学科をご卒業されていますよね。学生時代はジャーナリストを志望されていたり、マスコミ業界に興味をお持ちだったのでしょうか?

若い頃の私はどちらかといえば理想主義的なタイプで、「将来国連職員になりたい」と思っていた時期もありました。

そうした背景から、「世界を知る」「情報を扱う」ということに興味があり、新聞学科を選びました。ただし、当時は学生らしく、真面目に勉強ばかりしていたわけではありません。

とはいえ、大学での学びはとても面白かったです。卒業論文では「コンピュータを媒介としたコミュニケーションが、人間関係をどう補強するか」をテーマに研究をしました。現在のIT社会の文脈にもつながる内容で、今のキャリアにも意外とその視点が生きていると感じます。

 

就職氷河期の時代に就活をされて、80社もの企業に応募されたと伺いました。その中で、IT業界を目指された理由は「1年で7年分の経験が積めると言われていたから」とのことですが、当時描いていたキャリアビジョンはどのようなものでしたか? 

実は、最初にIT業界を選んだのは、とてもシンプルな理由でした。当時、働きたい会社ランキングの上位に名前が挙がっていたこともあり、「派手で面白そうだ」と思ったからなんです。特に私が入社した頃の日本オラクルは上場直後ということもあって、優秀でエネルギッシュな同期が多く、学生時代には出会えなかったようなおもしろい人材が集まってくる場所でもありました。

実際に入社してみると、23歳や24歳といった若さで、NTTドコモやトヨタといった大手企業を相手にした責任ある業務を任される環境がありました。今思うと、当時はまだまだ会社の組織が固まっていなかったからこそ、若手がダイナミックに動くチャンスに恵まれていたのだと思います。

ですので、入社当初から「将来独立しよう」と明確に決めていたわけではありません。ただ、「伸びている会社に飛び込めば、普通では得られないチャンスがあるはずだ」という感覚は強く持っていました。この“成長の刺激”が、結果的に私のキャリア観にも大きな影響を与えたのは間違いありません。

 

日本オラクルで働かれていた時のご経験の中で、「この経験をしておいて本当によかった」と感じた仕事はありますか?

日本オラクルでの経験の中で特に大きな学びになったのは「事業開発におけるプロジェクトマネジメント」の力です。IT企業の営業職というと、単なる商品販売のイメージを持たれがちですが、実際には、仮説を立て、情報を集め、顧客と事業構想を組み立てていくというプロジェクト型の動きが中心になります。

その過程では、お客様の組織図や文化を理解し、意思決定の構造や人間関係、さらには“どこに誰が力を持っているのか”といった背景情報まで丁寧に把握する必要があります。つまり単にモノを売るのではなく、「その企業におけるプロジェクト全体の動線を描き、実行をサポートする」ことが営業の役割になるわけです。

この、プロジェクトマネジメント視点で顧客に深く関わる経験は、その後のキャリアにおいても大きな財産となっています。

 

日本オラクルからイスラエルのスタートアップに転職されたきっかけが報酬面だったと拝見しました。言語や文化の違いなど不安はなかったのでしょうか? また、なぜ思い切って挑戦しようと決断されたのか、理由を教えてください

転職のきっかけは非常にシンプルで、「報酬が圧倒的に高かった」ことが大きな動機でした。当時の私は、理想や志を持って社会に出たにもかかわらず、いつの間にか“お金”という尺度に心が傾いていた時期でもありました。イスラエルの企業から提示された給与水準やストックオプションは、魅力的すぎる条件だったのです。

もちろん、言語面や文化の違いについては不安もありました。実際、英語は全然得意ではありませんでしたし、異文化で働くという挑戦は簡単なことではありません。しかし、当時は「きっとなんとかなるだろう」と、ある意味で勢いだけの判断で踏み切ったというのが正直なところです。

自分の中で「成功したい」という気持ちが強く、それに応える環境がそこにあると感じたので、思い切って飛び込んだ転職でした。

 

スタートアップと大企業をご経験されていますが、最も違いを感じた部分を教えてください

最も大きなギャップを感じたのは、営業スタイルとそこに求められる意思決定のスピードです。前職では大企業だったこともあり、長期的な信頼関係の構築を前提に営業活動を行っていました。例えば、大手企業の重要顧客を担当していた際には、5年先までの投資計画を把握し、嘘をつかない姿勢で信頼を積み重ねていくことが何より重要でした。

一方、スタートアップでは短期的な成果が求められ、テクノロジーの進化を前提に「今は性能が出ていなくても『来週には出るから大丈夫だ』と提案してしまうようなスピード感」が常識でした。その背景には、チームの開発力への強い自信があり、「なぜ信じないんだ」と問われるような文化もありました。

さらに、スタートアップでは「実績よりもビジョン」を語って商談を進める必要があったのも大きな違いでした。長年、積み重ね型の営業スタイルを続けていた私には、その文化やスピード感は非常に馴染みにくく、正直なところ、当時はうまく適応できていないと感じていました。

 

その後税理士を目指され、資格取得後に税理士法人を設立されましたよね。成功されていた中で、なぜ改めてバックオフィス領域で会社を立ち上げようと思われたのでしょうか。創業の経緯について教えてください

実は、税理士法人を立ち上げたときからすでに「株式会社を作って上場する」という構想をパートナーに伝えており、その方向性は当初から決めていました。ただし、何を事業の中心に据えるかは手探りの状態でした。

しかし、税理士として日々企業のバックオフィスと向き合う中で、ある構造上の課題に気づいたことが大きな転機となりました。同時に、2012年頃から「freee」や「マネーフォワード」といったクラウド会計サービスが登場し、2015年頃には町の税理士事務所でも普及しはじめていたことから、「あらゆるバックオフィス業務がインターネットに接続し始めている」という潮流を強く感じました。

私は1999年に社会に出た世代ですが、当時広告や小売がインターネットによって劇的に変化した様子を目の当たりにしています。その経験から、「インターネット接続は業界構造を根本から変える」という実感があり、それがバックオフィス領域でも確実に起こると確信しました。実際、当時は「バックオフィスのAWS化」と呼んでいたほど、変革の可能性を強く感じていました。

さらに、自分には税理士として企業の実務を深く理解しているという強みと、かつてERP(基幹システム)にも携わった経験があり、「バックオフィスがインターネットに接続することで生まれる新しい価値をつくれるのではないか」という仮説を持てたことが、創業の直接的なきっかけでした。

 

経営者としてこれまでにご経験されたことで、苦労したことはありますか?

現在進行形で苦労していることでもありますが、やはり「人」に関する課題が最も大きいですね。特に難しさを感じるのは「人の育成」です。育成というと上から目線にも聞こえてしまうのですが、「どう人は成長するのか」「どうすれば互助関係のある職場環境が築けるのか」といった本質的な問いに常に向き合ってきました。

理想としては、社員が前向きに働きながら切磋琢磨し、自身のスキルを伸ばしていける環境をつくりたいと考えてきました。また、私はワークライフバランスというよりも、仕事と人生が統合された「ワークライフインテグレーション」が望ましいと考えています。社員一人ひとりの個人的な事情にも配慮しながら、仕事を通じて幸せに生きていける仕組みをどう実現するか。これがとにかく難しかったです。

最近はようやく、その難しさの一部をクリアしつつある感覚もあります。ただ、ここまでたどり着くまでには、想像以上に時間がかかったなと感じています。

 

Wewillでは、人材の成長において「価値観の浸透」や「ストーリーで語ること」を重視されていると感じました。これは試行錯誤を重ねた結果たどり着いたやり方でしょうか? それとも創業当初から変わらず続けている取り組みですか?

完全に後者です。私はいわゆる“頭でっかち”なタイプで、理念や人材観については、創業時からほとんど変わっていません。

たとえば、「ひとりの幸せ・組織の意味」といった人事理念体系も、創業当時に作成した図式があり、今もほぼ変わらず使っています。根本にあるのは「社員がどうすれば幸せに働けるか」という視点で、これは一貫しています。

また、当社はテクノロジー企業だという自負がありますが、同時に「テクノロジーを活かすのは人間である」と強く考えています。SYNUPSのようなプロダクトを成長させるためにも、最も重要で、かつ時間がかかる“人の要素”から着手すべきだと捉えてきました。

結果として、近年「SaaSだけでは難しい」「結局は人的サービスが重要」といった流れが広がっていますが、そうした世界観を私自身は5年以上前から意識しており、先に人材づくりに注力してきたことは、少し誇りに思っている部分です。

今もなお未完成な部分は多いですが、「先に人を整える」という発想に関しては、創業時から変わらず取り組んでいます。

 

人材育成のために取り組まれてきたことの中で、「最も成果が出た」と感じる施策はどのようなものですか?

最も効果があったと感じているのは、「語りかけること」です。

私は、会社として「独立自尊」と「10の行動」という行動規範を掲げていますが、それを“言葉だけ”で終わらせるのではなく、実際のルールや仕組みにまで落とし込んでいくことを徹底してきました。

たとえば、就業規則や勤怠打刻のルール、経費精算の方法、あるいは交通費の考え方など、細かい制度や運用にも「独立自尊」に基づく一貫性を持たせるよう設計してきました。そうすることで、理念が実際の職場文化として機能し、社員一人ひとりの行動に反映されていくようにしています。

結果として、当社のメンバーは本当に一生懸命に仕事に取り組んでいます。スタートアップでありながら、一人ひとりが自律し、互いに力を発揮する会社としての土壌ができつつあることは、大きな価値があったと感じています。

最近は社員の日々の頑張りを見ると、つい胸が熱くなることもあります。年をとって涙もろくなっただけかもしれませんが(笑)、それだけ会社として大切にしてきた「人を育てる仕組み」が実を結びつつあると感じる場面が増えてきました。

もちろん、すべてが順調というわけではありません。離職率は現状25%ほどあり、決して低いとは言えません。特に当社は「リモートワーク」を非常に重視しているため、その働き方に対するイメージとのギャップが生じ、ミスマッチが起こることもしばしばです。

面接時にも、その点は丁寧に伝えるよう努めているのですが、まだまだ伝えきれていない部分もあると感じており、そこは引き続き改善余地があると考えています。リモートワークは世間でイメージされているような“楽な働き方”ではなく、むしろ自律性が求められる側面が大きい。その現実を適切に共有し、入社後の不幸なミスマッチを減らしていくことも、今後の課題として捉えています。

 

Wewillではアライアンス型雇用をされているとのことですが、なぜこの雇用方法に行き着いたのか、そして実施による成果を教えてください

従来、日本では「メンバーシップ型雇用」、欧米では「ジョブ型雇用」が主流でしたが、いずれも現代の働き方に完全にはフィットしていないと感じています。メンバーシップ型は年功序列的な仕組みが限界を迎え、ジョブ型も「役割が終われば人が入れ替わる」構造のため、チャレンジが生まれにくい。その中間的な発想として着目したのが、リード・ホフマン氏の著書『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用 』で提唱される「アライアンス型雇用」です。

アライアンス型雇用では、企業と個人が対等なパートナーとして一定期間の成長契約を結ぶという考え方を重視します。
つまり、企業は個人に「成長機会」への平等なアクセスを提供し、個人はその期間でスキルを磨き、新たな価値を生み出すのです。この関係を繰り返し積み重ねていくことで、企業と個人が共にWin-winになるよう健全な循環を目指します。

特にバックオフィス領域は、「キャリアになりにくい」と言われてきました。
中小企業の管理部門などでは、10年同じ職場にいても担当業務が変わらず、スキルアップの機会が乏しいという課題があります。
しかし当社では、複数企業のバックオフィス業務を集約・分業しているため、社員が様々な業務領域を横断的に経験できる環境を用意しています。結果として、社員のスキル開発が進むほどサービス品質が向上し、品質向上がさらに新しい成長機会を生むというポジティブサイクルが生まれているのです。

このように、アライアンス型雇用は「企業の進化」と「個人の成長」を両立させるための仕組みとして機能しています。
変化の激しい時代において、社員がスキルを磨き続けられる環境をつくること――それこそが、会社の最大の責任だと考えています。

 

10月2日を「意思あるバックオフィスの日」と制定された背景について教えてください。なぜ記念日を設定しようと思われたのでしょうか?

10月2日という日付は、実は当社の創業日に由来しています。ただ、その背景にはもう一つ大きな理由があります。それは、「バックオフィスはコストである」「バックオフィスの仕事はキャリアにならない」という、いわば固定観念のようになってしまっている“常識”に対して、疑問を投げかけたかったからです。

バックオフィスは本当にコストなのでしょうか。そこで働く人の役割は、本当にキャリアにならないのでしょうか。──こうした問いを投げかけ、バックオフィスの価値をもう一度考え直すきっかけをつくりたかった。それが「意思あるバックオフィスの日」を制定した理由です。

記念日を設けることで、バックオフィスに光を当て、その重要性を社会全体で再認識してもらう機会にしたいと考えています。

 

今後の展望についてお聞かせください

当社は「バックオフィスのインフラ化」を目指す企業として、今後大きく2つの方向性でサービスを進化させていく計画です。

1つ目は、AIワーカー時代への対応です。近い将来、AIが人間と協働しながらバックオフィス業務を担うことが、現実味を帯びてきています。その時代に備えるために必要なのが、「業務手順(ワークフロー)」と「ナレッジ」の可視化と構造化です。この2つを整理し、「SYNUPS」に蓄積していくことこそが、AIワーカーを有効に活用するための土台づくりだと考えています。

当社では、「SYNUPS」をAIと人間が連携しやすいプラットフォームへと進化させることで、AIワーカーが実際に活躍できる環境を整えていきたいと考えています。

2つ目は、「スキルベースマネジメント」機能の強化です。これは「誰が、どの業務を、どのレベルの難易度で行っているか」を可視化するもので、個人のスキルを「見える化」し、実務経験と学習を紐付けながら成長できる仕組みです。

SYNUPS上で、社員それぞれが自分のスキルマップを確認し、キャリアや能力開発の方向性を自ら描ける世界をつくりたいと考えています。

 

他の経営者におすすめする書籍を教えてください

いくつかありますが、特に以下の書籍をおすすめします。

『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』

テレサ・アマビール (著), スティーブン・クレイマー (著), 中竹竜二 (監修), 樋口武志 (翻訳)
マネージャーがリーダーとして本当に大切にすべきことを、実践的にまとめた良書です。
特に「業務は進捗である」という考え方が印象的で、組織の成果を出すための本質が詰まっています。

 

『生成AI 「戦力化」の教科書』

松本 勇気(著))
今まさにAIが経営の必須テーマになっている中、生成AIをどう活用すべきかを体系立てて学べる本です。
AIを単なるツールではなく、経営戦略として組み込む視点が得られるので、経営者には特に読んでいただきたい一冊です。

 

『ネットワークエフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク 』

アンドリュー・チェン (著), 大熊 希美 (翻訳))
スタートアップ経営者は必読だと思います。
プロダクトやサービスが「使えば使うほど価値が高まる」仕組み=ネットワーク効果をどう設計し、どう拡大していくのかが具体的に書かれています。

 

『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』

冨山 和彦(著))
これからの働き方の大きな転換点を示す本でもあります。
バックオフィスのあり方やホワイトカラーの役割がこれからどう変わるべきか、考えさせられる内容です。

 

どれも示唆に富んだ内容で、経営者として新しい視点や経営へのヒントが得られる本ばかりですので、ぜひ手に取ってみてください。

『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』 (テレサ・アマビール (著), スティーブン・クレイマー (著), 中竹竜二 (監修), 樋口武志 (翻訳))

https://www.amazon.co.jp/dp/4862762409

『生成AI 「戦力化」の教科書』 (松本 勇気(著))

https://www.amazon.co.jp/dp/429607122X

『ネットワークエフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク 』 (アンドリュー・チェン (著), 大熊 希美 (翻訳))

https://www.amazon.co.jp/dp/4296001256

『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』 (冨山 和彦(著))

https://www.amazon.co.jp/dp/4140887281

 

投稿者プロフィール

『社長の履歴書』編集部
『社長の履歴書』編集部
企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。

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