今回は有限会社金沢アトリエ 湘南美術学院代表、尾竹仁氏にお話を伺ってきました。
「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。
ぜひご覧ください!
会社名称 | 有限会社金沢アトリエ 湘南美術学院 |
代表者 | 尾竹仁 |
設立 | 1984年4月12日 |
主な事業 | ● 美術系の大学院、大学、短期大学及び専門学校への受験を目的とする予備校の経営。
● 美術の知識・技能に関する通信教育の実施。 ● 美術の知識・技能に関する書籍等の出版。 ● 美術系の高校への受検を目的とする学習塾の経営。 ● 通信制高校サポート校の運営。 ● 企業研修の実施。 ● 社会人向けの美術教室の経営。 ● PRに関する企画立案、実施運営、コンサルティング。 ● 各種イベント事業。 ● アート、デザイン制作事業。 ● 各種ギャラリー、ショールーム等展示場の企画、制作、運営。 ● レンタルオフィス、レンタルスペースの運営。 |
社員数 | 160名(正社員30名) 2024年6月現在 |
会社所在地 | 神奈川県鎌倉市大船2-18-28 |
会社HP | https://shonabi.jp/ |
事業内容を教えてください
有限会社金沢アトリエは2024年に創業40周年を迎えました。神奈川県にある3拠点で「美術は世界を変えられる」という企業理念を掲げ、美術大学(以後:美大)、芸術大学を目指される学生に向けた専門の予備校を運営しています。美大受験は一般大学の受験とは異なっており、実技の試験がメインで課せられています。そのため当社は美大に合格するための実技の指導を行っています。
年間で1000名近くの学生が通ってくれていますが、美大受験以外にも、社会人クラスや中学生向けのクラス、小学生に向けたワークショップなど幅広い授業を行っています。
予備校の運営以外も事業を展開されていらっしゃるのは、どのような理由からでしょうか?
美大卒業後、多くの学生が創作活動を続けることの難しさに直面しています。これは日本の美術市場がまだ成熟していないという課題も一因ではありますが、私たちが本質的に取り組もうとしているのは、そのようなクリエイティブ人材が社会と“正しく”接続されていないという構造の課題です。アーティストやクリエイティブ人材は、芸術表現だけでなく、観察力・発想力・批評性など社会に新しい視点をもたらす力を持っています。しかし、彼らの力が社会の中で正しく評価され、活かされる仕組みがまだ充分に存在していません。だからこそ、私たちは単に予備校で受験指導をするだけではなく、卒業後も若手作家の活動を支援し、また企業向けにアート思考を導入する研修を行っています。さらに今後は、地域社会との連携を通じて、政治や行政だけでは解決できない社会構造の課題に対しても、アートの視点から新たなアプローチを試みていきたいと考えています。
予備校事業はそのための「入り口」であり、教育から社会までを一貫してつなぐことで、「創造性」が真に社会の力になる未来をつくることが、私たちの事業展開の本質的な目的です。
法人向けの研修ではどのようなことをされているのでしょうか?
アート思考をお伝えする研修を行っています。一般教養だけではなかなか育ちにくいのが発想力です。当社には学生時代からトレーニングされている希少な人材が多く在籍していますし、予備校という事業柄、この人材が増え続けていきます。これまでずっとマイノリティだったアート人材と手を取り合うことで、社会の中で1つの大きな集団になっていくと思います。そして、平準化してしまう社会に対して、当社の取り組みを地域社会問題に転用していきたいです。
具体的にはどのような内容ですか?
美大の受験というと、ギリシャ彫刻のような立体のレプリカを鉛筆で平面の紙に描き起こす課題を皆さんは想像すると思います。これが一次試験の定番ですが、よく誤解されるのが、「センスがないと無理なんじゃないか」ということです。しかし、これはトレーニングでクリアできるものです。
この試験を突破するために1番重要なのは目です。正しくものを観察できていないと、正しく紙に描き起こすことはできません。
研修では、ものの見方を変えることで、日常の景色が変わっていく体験を提供しています。
また、絵画鑑賞の解説を通してアート思考の研修も実施しています。アートは、なんとなく敷居が高いと思われがちですが、実はきちんと背景を読み解いていくことで、その作品が持つ意味や時代性を理解することができます。
アートの見方から現代社会で生きる考え方を学んでいく内容をご提供しています。
当社の事業内容の詳細は下記よりご覧ください。
ここからは尾竹社長のことをお聞かせください。学生時代はどのようにお過ごしでしたか?
中学生の頃、母の再婚をきっかけに家庭環境が変わりました。私にとってはその変化が、さまざまな価値観に触れる機会となり、家庭の中で多様な視点を学ぶ時間だったと感じています。
また、学校では苗字が変わったことで、自分がどのように他者から見られているかを意識するようになりました。自然と周囲に気を配り、場の空気や人の感情に敏感な子どもだったと思います。決して居心地が悪いというわけではありませんでしたが、どこか常に「周囲との関係性」を意識している自分がいたのは確かです。今振り返ると、そうした経験が、他者の立場に立って物事を考える力や、少数派の視点を尊重する感性へとつながっていると感じています。
高校ではアメリカに留学する機会を得ました。留学はもともと自分の中にはなかった選択肢でしたが、母の再婚を経て環境が整い、「やってみたい」と思った気持ちに素直に向き合えた結果でした。
当時のアメリカは9.11の影響も強く、社会が大きく揺れている時期でした。街ではホームレスの人々の姿も多く見られ、肌の色や経済格差に関する課題も日常の中で感じられる環境でした。
そうした現実に触れたことで、社会の中にある「見えにくい部分」への関心が芽生えました。帰国後は、ドキュメンタリー映像の制作を通じて、ホームレスの方々を取材したり、社会的に声が届きにくい人々の姿を可視化する活動を行っていました。
どちらに就職したのでしょうか?
新卒では株式会社博報堂プロダクツという制作会社に入り、CM制作事業本部という、CMをプロディースする部署で予算・スケジュール・品質を管理する仕事をしていました。
就職活動の時は人の役に立つ仕事がしたいという考えがあったので、保険会社も見ていました。物事が起こった際の対処としての保険という機能に興味を持っていたことが理由です。何か物事が起きる前に、価値観に訴えかけられる映像制作と、何か起こった時に役立つもの、どちらが良いかで迷いましたが、自分の考えと最も親和性の高い映像制作会社に入社することにしました。
博報堂プロダクツでのお仕事で印象に残っていることはありますか?
広告業界で仕事をする中で、ふと気づいたことがありました。
どの提案も似たような方向に収束し、街のビルも、人も、スーツ姿も、どこを見ても同じように見える、そんな均質化された社会に、どこか息苦しさを感じていました。
博報堂グループに在籍していた当時は、広告提案も価格競争を強いられる場面が多く、結果として「安く・効率的に」仕上げることを求められることは少なくありませんでした。新しい視点を持とうーによってますます効率化が進んでいます。AIは「多数が正解としたもの」を平準化していくツールです。便利ではあるものの、それだけでは社会全体が“似たような選択肢”ばかりになるのではないか、という懸念があります。特に日本のように外からの文化流入が限定的な環境では、その傾向はより強まるのではないかと感じています。
だからこそ、「多様な価値観」や「個性」を尊重できる社会にしていく必要がある。その鍵は、教育にあると考えました。価値観は一朝一夕に変えられるものではなく、世代を超えて育まれていくものだからです。この仮説のもと、私は教育の現場に身を置き、「個性を起点に社会とつながる力」を育む環境づくりに取り組みたいと考え、現在の会社に入社しました。
有限会社金沢アトリエ 湘南美術学院に入社された経緯を教えてください
有限会社金沢アトリエ 湘南美術学院は育ての父が代表でした。家の中で自分の仕事の話はしませんし、私も養子だったので父は継ぎ手として私のことを想定していたわけではありません。しかし、自分が感じたこの社会課題に対して、「美術教育が1つの答えになり得るのではないか」と思ったときに、ようやく家業と自分の考えが重なりました。それまで経営者になりたいと思ったことはなく、この会社に入って課題解決をしていきたい思いが先行していました。結果的に経営者になりましたが、たまたま問題解決をする手段や私の役割が経営者になった形ですね。入社してから経営者になるまでは、準備期間として5年設けてもらいました。
どうして5年間も準備をしたのでしょうか?
私自身が美大出身者ではない中で経営のバトンが引き継がれるということは社員の負担になるからです。しかも経営をしてきた人間ではなく、なおかつ業界外から来る家族に引き継ぐとなると従業員には不安が生まれます。
そのため、経営者のバトンが引き継がれることは、組織として相乗効果を生み出している状態にあるべきだと思いました。もっと会社を強くする、大きくする前提があるなかで、会社の中で実績を作っていくことが必要だったため、充分な準備期間が必要でした。
入社後はどのような仕事をされていましたか?
私の入社のタイミングで横浜校の立ち上げプロジェクトが発足しました。しかし、経営情報を把握した時、日本の人口が減っていくなかでこの予備校事業の寿命を漠然と感じました。美術教育の可能性に期待して入りましたが、先が短いことを知り、どうにかして結末を変えなければいけないと考えていました。
また、そうした組織の展望を実現するため、仕組みの改革を行いました。若手の育成や、共に経営を考えていく存在が必要だと感じたことがきっかけです。
特に大変だった改革はなんでしょうか?
情報の共有の仕方ですね。どのような経済の成り立ちで動いている会社なのかなど、基本から正しく情報を共有していかないと、思い込みの批判が生じます。また、これからの変化の多い時代においてはトップ一人に全ての意思決定を集中させるやり方だと、選択を誤った時に取り返しがつかない状態に組織が陥ってしまいます。だからこそ、部長や課長クラスだけでなく、現場のスタッフにも経営視点を持ってもらえるようにしていかなければなりません。今まで経営者にしか公開されていなかった情報を社員にも公開し、財務の見方を徹底して社員に教えることで、権限を委譲していくようにしています。
そのため毎年、共有する対象を増やしながら会社の情報を正しく伝えられるよう工夫しています。
素晴らしいですね!
ありがとうございます。当社は株式を公開していないので従業員総会が開かれます。決算の報告義務はありませんが、あえて従業員には会社の数字を共有しています。社会も資本主義の中で経済が回っているわけですから、小さな組織の経済を理解することは重要な姿勢です。なぜなら、数字を理解できないと、本当に評価される作品やプロジェクトの価値を作りにくいと考えているからです。
これからも私自身が経営を学んで、社員に還元していきたいです。私はサラリーマン時代にずっと「もっとこんな福利厚生があったら良いのに」「こんなことを知りたいな」など経営に関することを求めていました。その思いを今、当社の社員のためになるように伝えるようにしています。
今後の目標はありますか?
先進国の中で唯一、日本経済は30年以上止まっています。私自身子どももいますし、未来の社会で活躍するであろう学生と深く関わっているからこそ強く想うことですが、日本人らしさが時折経済の発展によからぬ影響を与えるのであれば、教育からアプローチを変えていかなければなりません。
そのためにも、我々は学校法人ではないという特質を活かして、迅速な意思決定をしていきたいです。教育以外の事業にも幅を持って、美術教育が今後その課題を解決し得る可能性を秘めた存在であることの証明を、社会に対して発信していきます。
私たちは年間約1,000名の生徒と関わっています。この数は、新卒採用において毎年1,000名規模のリーチが可能な企業が限られていることを考えると、非常に希少な接点といえます。しかも、関わっているのは単なる人数ではなく、「美術教養を身につけた人材」です。彼らの情報や関係性は、教育事業を継続する限り年々蓄積されていく、いわばニッチで質の高い人的アセットです。このリストは、今後我々が展開する企業や地域との連携事業、アート思考を活用した研修や、クリエイティブ支援などにおいても、大きな価値を持つと考えています。予備校という基盤があるからこそ、社会で活躍するクリエイティブ人材とのつながりを継続的に育てていける。そうしたネットワークを通じて、社会の中で新たな価値を生み出していくことが、私たちの目指すビジョンです。
経営者におすすめする本を教えてください
大田堯(おおた たかし)さんの著書『生きることは学ぶこと 教育はアート』をご紹介します。
この本の存在は、ある従業員からの勧めで知ったのですが、読んでみて本当に多くの気づきがありました。著者の大田さんは、何十年も前から造形教育や表現教育を通じて、子どもの自由な創造性に着目し、研究を続けてこられた方です。日本の既存の教育システムに対して一貫して問いを投げかけ、根本的な教育のあり方を考えさせてくれます。
本書を読むと、「なるほど、こうした歴史や背景があって、今の教育の課題があるのか」と腑に落ちる場面が多くあり、物の見方そのものが変わるような感覚を得られました。
これからの教育にどう向き合っていけばよいのか、そのヒントが詰まった一冊です。
経営者だけでなく、社会人、そして学ぶ立場にあるすべての人にとっても、有益な内容だと思います。
ぜひ手に取ってみてください。
投稿者プロフィール

-
新入社員を含めたフレッシュなメンバーを中心に、出版サポートの傍らインタビューを行っております!
就活生に近い目線を持ちつつ様々な業種の方との交流を活かし、「社長に聞きたい」ポイントを深掘りしていきます。
代表者様のキャリアを通して、組織の魅力が伝わる記事を発信していけるよう、これからも一生懸命運営してまいります!
最新の投稿
仕事06/25/2025有限会社金沢アトリエ 湘南美術学院代表 尾竹仁氏
仕事06/23/2025株式会社ワカヤマ代表 若山 健太郎氏
仕事06/23/2025株式会社コラボハウス代表 松坂 直樹氏
人材06/23/2025株式会社弘栄ドリームワークス会長 船橋吾一氏