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株式会社Nobest代表 石井 宏一良氏

  • 12/29/2025
  • 12/16/2025
  • 仕事
  • 4回

今回は株式会社Nobest代表、石井 宏一良氏にお話を伺ってきました。

「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。

ぜひご覧ください!

 

会社名称 株式会社Nobest(ノベスト)
代表者 石井 宏一良
設立 2022年4月22日
主な事業 主に太陽光設備向け、設備管理トータルソリューションの提供、天気予報
社員数 4名(取材時)
会社所在地 神奈川県川崎市中原区新丸子東2-895-33
会社HP https://nobest.jp/

 

事業紹介をお願いします

株式会社Nobestは電気を買わない家、持続可能なIoTハウスの実現を目指す会社です。現在、主に太陽光発電設備を中心としたインフラ向けのIoT監視ソリューション「Nobest-IoT」を提供しています。

近年、下水道管の破損、道路の陥没、太陽光発電施設の発火といったインフラ事故が全国で相次いでいます。埼玉県や北海道の事例も記憶に新しく、日本では老朽化インフラへの依存が非常に大きいという事実が浮き彫りになっています。こうした状況にもかかわらず、インフラ設備の保守・点検は依然として「人の目」に頼る部分が大きいのが現状です。

太陽光発電も例外ではなく、設置場所が全国に広がるほど、必要な人員や時間は増えていきます。しかし現在は、人材不足をはじめ、少子化による採用難、点検要員の確保が難しいといった社会課題に直面しています。「予算をつければ解決する」という時代はすでに終わり、そもそも点検できる人がいないという構造的な問題が起きていることから、このままでは、インフラの保全そのものが立ち行かなくなる可能性があります。

そこで私たちは、IoTとAIを活用し、インフラを自動で・遠隔で・一括で監視できる仕組みを提供するべきだという強い思いから、「Nobest-IoT」を開発しました。今までバラバラだった監視を統合することで一括で遠隔状態監視でき、AIを使いながら重要箇所のみを監視することが可能なため、人手だけに頼らない「スマート保全」の体制が構築ができます。

こうした機能により、社会課題の解決と企業の保守効率化に寄与するスマート保全ソリューションとして、多くのお客様に導入いただいています。

 

この事業を始めるきっかけについて教えてください

この事業を始めた理由は、私自身の原体験にあります。
幼い頃から「温暖化を解決する人生を歩みたい」と強く決めており、どうすれば化石燃料に依存しない社会を実現できるのかを考え続けてきました。そのため、小さい頃からエネルギーについて独学で勉強していました。

転機になったのは小学5年生の時です。私はプラモデルが好きだったのですが、その売り場で偶然「ソーラーパネル」を見つけました。
しかも「電池の代わりになる」と書いてあり、「電池の代わりってどういうことだ?」と衝撃を受けました。子どもながらに、その仕組みを理解したくて夢中で調べ始めたのが最初です。そこから太陽光パネルの技術に強く興味を持ちました。当時はまだ黎明期の技術でしたが、これは必ず未来に必要になると直感しましたし、将来は太陽光以外にも「第2のソーラーパネル」と呼べるような、何か新しいエネルギー源を作りたいという思いを持ち続けていました。

太陽光パネルには、スマートフォンのCPUにも使われる「シリコンウェハー(半導体)」が使われています。太陽光も半導体も、実は同じ技術基盤の上に成り立っているわけです。私はその共通点に惹かれて、まずは産業用半導体の領域へ進み、ウェハーに関係する技術を徹底的に学びました。

その後は、太陽光に特化するというより、「太陽光以外にもエネルギーの代替技術をつくれないか」という探究心で研究を続けてきました。

こうした流れの延長線上に、現在の事業があります。温暖化解決への想い、エネルギー技術への興味、そして子どもの頃からの探究心それらすべてが今の事業につながっています。

 

Nobestのサービス対象者について教えてください

当社のサービスは、インフラ設備のメンテナンスを現場で行っている方々を対象としたソリューションです。太陽光発電所をはじめ、インフラ設備の保守・点検に携わる企業様であれば、全国どこでもご利用いただけます。

また、システム自体は世界中で使える仕様で設計しており、現時点ではまだ多言語対応はしていないものの、来年以降は本格的に多言語化を進め、海外展開も視野に入れています。

 

当社の製品については、下記をご参照ください

Nobest-IoT

再生可能エネルギーを活用したスマート設備管理に必要不可欠な「見える化」と「予測」。
Nobest IoTは、電流・位置・履歴をデジタルで統合し、エネルギーと設備の持続可能な運用を支えます。
クラウド連携によるリアルタイム制御、そして独自のAIシステム「CAEOS」による故障予測・最適化管理まで、
すべてをワンプラットフォームで実現します。

https://nobest.jp/service/solar

 

CAEOS(ケイオス)

天気×場所、天気×故障等の組合せ最適化問題を解き、因果関係や予測を導き出すシステムです。

https://nobest.jp/service/caeos

 

NI Tag

設備に取り付けるRFIDタグまたはビーコンです。
製品や装置に物理的に取り付けられ、ID管理・履歴の追跡・点検情報の記録を可能にします。

https://nobest.jp/service/nitag

 

NI Station&NI Clamp

設備の稼働状況を電流計測というシンプルかつ高精度な方法で常時モニタリングし、リアルタイムにクラウドへ送信するIoT監視ソリューションです。

https://nobest.jp/service/niclamp-nistation

 

ここからは石井社長のことをお聞かせください。学生時代に熱中していたことはありますか?

そうですね。振り返ると、ずっと勉強か何かを開発しているような学生でした。いまも基本的には変わっていませんが、当時から対外的な部活動やイベントごとにはあまり関わっていなかったと思います。

ただ一方で、視察のようなことはよくしていました。たとえば、製紙工場や再生紙をつくる工場に「どうなっているんだろう」と興味を持って突撃で見に行ったり、森を守ることに関心があったので林業の現場で働いている方のところへ伺って「どういう作業をしているんですか?」と話を聞かせてもらったり。視察というほど本格的なものではありませんが、現場に足を運んで解像度を上げていくようなことは、ずっとやっていました。

日常で言えば、本屋へ行くか、図書館へ行くか、現場を見に行くか、家で何かを作っているかのどれかだったと思います。

 

将来はどのような仕事をしたいとお考えだったのでしょうか?

そうですね。むしろ、経営者になりたいという意識はまったくありませんでした。経営者という選択肢そのものが、自分の中に存在していなかったと思います。私の場合は、とにかく 「温暖化を解決したい」「社会課題を技術で解決したい」 という思いが最も強かったんです。極端にいえば、「温暖化が解決できるのであれば、手段はなんでもいい」という感覚で、そのためには技術が必要だと、ごくシンプルに考えていました。経営というよりも、技術を極めて社会に貢献するという方向に意識が向いていた、そんな幼少期・学生時代だったと思います。

 

大学では林業の研究をされていたそうですが、どのようなきっかけがあったのでしょう?

まず、当時は環境学を専門で学べる大学が本当に少なくて、東北と関東で探したところ、候補がほぼ2校しかありませんでした。私は国語や英語、社会が苦手で、いわゆる受験科目はダメダメでしたが、技術分野に関しては誰よりも自信があったので、環境と技術を掛け合わせた分野を選んだ、というのが最初のきっかけです。

大学では、環境学と並行して、ソフトウェアを使って環境データを可視化・分析する研究を続けていました。同時に、行動範囲が広がったことで、ビッグサイトで開催される「エコプロダクツ展(エコプロ)」に毎年参加し、最先端の環境技術や取り組みに触れるようになりました。

その中で、温暖化を解決するには大きく2つの方法があると改めて気がつきました。

1つはCO₂を「出さない」こと、もう1つはCO₂を「吸収する」ことです。「吸収」の主体は、森(林業)と海です。海が膨大なCO₂を吸収していることはあまり知られていませんが、実際には極めて大きな役割を担っています。ただ、海はコントロールができません。一方で、森は人の手で管理でき、すでに経済活動として「林業」という仕組みもあります。しかし、そこで気づいたのが、「日本の林業は衰退している」という現実です。

海外では林業が大きな産業として成立しているのに、なぜ日本ではうまくいっていないのか。この構造を変えることができれば、森林が吸収するCO₂量も増やせるし、木質ペレットや木材由来のバイオエネルギーの可能性も広がる。つまり、林業の再生が、温暖化対策とエネルギー問題の両方の鍵になると考えました。そうした発想から、林業の仕組みや課題を深く理解する必要があると感じ、研究テーマとして林業を選びました。

 

就職活動ではどのような業界を見ていらっしゃったのでしょうか?

当時は本気で、林業を守るために林野庁か環境省に行くつもりでした。もうその2つしか見えていなかったと言っていいと思います。

実際、受験の直前に省庁に勤めている知り合いのおじさんに相談しました。
「私はこういうことをやりたい。そのために環境省(または林野庁)に行きたいんです。どんな勉強をしたらいいですか?」と聞くと、

「環境省や林野庁に行っても、お前のやりたいことは1つもできないぞ」と言われました。続けて、「あそこは調査をし、報告書をまとめ、国の方向性やルールを決める場所だ。だが改善するという実行部分は民間の役割だ。省庁は新しいアイデアを試す場所ではない」と説明されました。

その時、自分が調べたつもりになっていただけで、進路の本質を理解していなかったことに気づきました。やりたいことだけに一直線で、自分がどんな立場で動くべきなのかを全く考えていなかったことを大きく反省した瞬間です。

そのため、「自分のやりたい“改善”をするなら民間に行くしかない。研究も民間側でやらなければいけない」と考え直し、どこで技術を磨くべきかを探しました。その時派遣会社に登録したところ、シリコンウェハーを作る「三洋半導体」が人材を募集しており、ここなら技術の基盤を学べる、環境・エネルギー問題の核心にも近いと思い、入社しました。

 

社会人生活の中で、いつ起業を意識したのでしょうか?

起業を意識し始めたのは、28歳から30歳くらいの時期だったと思います。
ちょうど、「起業した方がいいのでは」「いや、まだ早いのでは」と気持ちが揺れ続けていた頃です。その背景には、社会人として働く中で、誰もリスクを取らないという現実に直面したことが大きかったですね。

私は「温暖化を解決する」という目的をずっと持っていますが、会社では当然ながら、それは会社にとって儲かるのか、リスクはどれくらいあるのかという基準で判断されます。

どれだけ「社会にとって必要だ」と熱く語っても、企画が通りません。組織には組織の判断軸があるので、当然といえば当然なのですが、自分の想いと企業の意思決定が完全には合わないというジレンマがありました。そして、「そこまでリスクを背負ってやりたいなら、自分で会社を作れば?」と言われることも多々ありました。言われてみればその通りで、私は「お金持ちになりたいから」起業したいわけではなく、あくまで温暖化を解決したいから動いています。なので、その目的を実現できる枠は会社でも、社団法人でも、何でもいいのですが、これがなかなか見つかりません。そうなると、「もう自分でその枠を作るしかないのでは」と考えるようになりました。

そこから、「では、自分がやるべき事業の形は何か?」とアイデアを模索し始めた、という流れになります。

 

起業を決断できずに揺れていた時期、何が引っかかっていたのでしょうか?

本当にしょうもない理由なんですが、「経営の勉強をしたくなかった」というのが、正直なところです。

私はずっと技術の勉強と開発に時間を使ってきましたし、やりたいことも“技術で社会課題を解決すること”なので、「なんで自分が経営の勉強までしないといけないんだろう」「経営は、もっと知識や経験のある人がやればいいじゃないか」と、ずっと反抗的な気持ちがありました。

本当に私は自分が活躍できる枠さえあればよかったので、技術で問題解決に集中できる場所があるならそれで十分だと思っていました。しかし現実には、その枠がどこにもありません。その納得できない気持ちがずっと引っかかり、起業に踏み切れず揺れ続けていました。

 

技術で温暖化を解決したいという強い思いが経営への抵抗につながっていたのですね

おっしゃる通りで、温暖化を解決するためのチャレンジができる場所があるなら、手段は本当に何でもよかったんです。
ただ、最短距離が起業であることは理解しつつも、起業するとなると人や組織、経営の勉強が必要になる。そこに強い抵抗がありました。その背景には、自分の中にものすごく強い“技術者魂”があったことが大きいと思います。実際、技術の本は小学生の頃から数えきれないほど読んできましたし、勉強もずっと続けてきました。今でこそChatGPTがありますが、当時こんなツールがあれば「どれだけ勉強できただろう」と思うくらい、技術に対してはずっとのめり込んでいたんです。

なので、「技術の勉強で手一杯なのに、なぜ経営まで?」という気持ちがどうしても拭えませんでした。
それくらい、技術に対して真剣で、純粋だったということなのかなと思います。

 

社会人時代に「やっておいてよかった」と感じる経験を教えてください

そうですね。やはり 仲間と一緒にゴールを目指し、力を合わせて達成していく経験が大きかったと思います。
どの会社にいても、私は常に新しいチャレンジが好きで、特別プロジェクトにアサインされたり、自分で立ち上げたりしてきました。その中で達成できることもあれば、できないこともある。それでも仲間と一緒に取り組んだ経験は、どれも非常に印象に残っています。

たとえば、最初に勤めた三洋半導体でのことです。部長が海外の商談や展示会に出展する際、準備も万端だと思っていたんですが、直前になって「必要なハードウェアがない」ということに気づきました。印刷物ならまだ対応できますが、ハードウェアとなると設計から必要になるので、普通なら間に合いません。そこで、私たちで 秋葉原へ部品を買いに走り、その場で設計して組み立てるという、ほとんど手作業の対応をしました。

そして後日。部長から「本当によくやってくれたな、助かったよ」と感謝された時は、仕事で感謝される喜び、誰かに貢献できる喜びを味わいました。

こうした経験は、どの会社でも必ずあって、仲間と挑戦し、乗り越えた時間が、自分にとってとても大切な財産になっています。

今でも付き合いのある大先輩や仲間には感謝しかありません。

 

起業までに何社ご経験されたのでしょうか?

起業までに4社を経験していますが、実質的には3社という感覚です。
というのも、あえて異なる業界に進みつつも、どの会社でも「エネルギーに近い領域」を意識して選んできたためです。

私の目的は一貫して「温暖化を解決するための技術をつくること」でした。その観点から、ソーラーパネルの開発も考えましたが、既に技術が成熟している部分が多く、そこに飛び込んでも新しい価値を出すことは難しいと感じました。

そこで、

  • 既存の技術を転用できないか
  • 異なる技術と掛け合わせて新しい太陽光デバイスを作れないか
  • そもそも太陽光ではない新しいエネルギー変換技術を作れないか

という視点で、「あえて別業界」を経験してきました。

 

■1社目:三洋半導体

ソーラーパネルもシリコンウェハーを使いますが、半導体も同じ基板を使っています。“基盤技術を理解することでヒントが得られるのではないか”と考え、まずウェハーの技術を学ぶために三洋半導体へ入りました。

 

■2社目:ソフトウェア企業

「ハードウェアでは限界があるかもしれない。ソフトウェアで環境問題を解決する道はないか」という視点で、次はソフトウェア企業へ転職しました。しかし、ここでも自分が目指す “根本的なエネルギー技術” は難しいと感じました。

 

■3社目:村田製作所(研究職)

そこで改めて考えたのが、「環境そのものを理解しなければ、エネルギー変換デバイスは生み出せない」ということです。

つまり、大気とは何か、水とは何か、重力とは何かといった自然の仕組みを「技術者視点で深く理解できる会社」で働きたいと思いました。その答えが、物理学からデバイス開発まで一貫して強い村田製作所でした。
ここで研究員として、センサーを中心に物理・デバイス・エネルギーの理解を深めていきました。

こうして、あえて異なる技術領域を横断しながら、すべてを「温暖化を解決するための基盤づくり」として積み重ねてきました。

 

起業の経緯を教えてください

まず、ある程度自分が会社員として学べることは学び切ったという感覚がありました。そしてちょうどその頃、太陽光パネルの事故やトラブルが徐々に増えているという現実を知りました。

同時に、クリーンエネルギー、クライメートテック、SDGsといった分野が国内外で一気に注目され、太陽光市場そのものも大きく成長してきていました。「環境」や「太陽光」が、いよいよ本格的に社会課題の中心になったその転換点のような時期でした。

一方で、私は長い間、“新しいエネルギーそのものを作り出したい”と考えてきましたが、技術的にも市場的にも、それは非常に難しいものです。肌感としても「今の時代にそれを実現するのは相当厳しい」と感じ始めていました。

そこで発想を少し変えて、「生まれつつある新しい市場の課題を解決する側に回るほうが、環境問題の一助になるのではないか」と考えるようになりました。夢そのものの規模は、当初の「新エネルギー開発」という壮大なものに比べれば小さく見えるかもしれません。ですが、太陽光市場の裏側では、O&M(保守・管理)会社の方々が人手不足や非効率で本当に困っていることに気がつきました。

これまで日本でも世界でも、こうした「地場産業」の現場が見過ごされてきましたが、ここを支えることが、結果的に環境問題の解決にもつながるとそう確信しました。

その思いから、“新しいエネルギーを発明する”のではなく、“新しいエネルギーを支える現場をテクノロジーで守る”という方向に舵を切り、2022年の起業に至りました。

 

経営者としてどのような苦労がありましたか?

私がまず直面したのは、営業経験ゼロ・経営経験ゼロという状況でスタートしたという点です。
大企業で働いていた頃と、スタートアップで自分のプロダクトを売るという行為は、まったく別物だということを理解するまでに、かなり苦労しました。大企業では、商品を提案するとブランドの信用力もあって「いいですね」と言っていただければ、そのまま購入につながることがほとんどです。しかし、スタートアップはまったく違います。皆さん口では「いいですね」と言ってくださるのに、お金は払ってくれません。私は最初、その理由が本当にわかりませんでした。

 

良いものなのに買っていただけない理由はどこにあったのでしょう?

たとえば、500円のパンがあったとして、「売上の1%が寄付になります」と聞けば、「いいね」と仰ってくださると思います。

しかし内心では、「500円か…普通のパンなら3つ買えるな」と感じていて、結局買ってくれません。

しかし、これがもし著名人が作ったパン、有名企業の社長が監修したパンであれば、同じ500円でも「むしろ安い」と感じて買ってもらえます。つまり、商品価値そのものではなく、“ブランドが生む付加価値” に対して人はお金を払っていることに気が付きました。

大企業ではブランドによって自然と補われていた部分が、スタートアップではゼロから積み上げなければいけません。

500円の価値、そのうち製品そのものが占める価値、ブランドが上乗せしている価値、こうした価値の分解を理解し、「人は商品そのものではなく、意味や信頼にお金を払う」というマインドへの切り替えが、非常に大変でした。

これが、起業して最初にぶつかった最も大きな壁です。

 

相手の価値感によって、どれだけ良い製品であっても判断が変わってしまうのが難しいところですよね

そうですね。「良いものを作っている」「社会的に意義がある」という自分側の価値観だけでは、商品は買っていただけません。

私自身、環境問題に対する思いが非常に強いので、少し極端な例で言えば、「ビーガンの方には圧倒的に支持される。でも、それ以外の人にはまったく刺さらない」という状況が起こりうるわけです。

しかし、冷静に考えれば、「じゃあ日本に、川崎市に、何人ビーガンの人がいるのか?」となった時、ターゲットの市場規模がほとんどないことに気づく。つまり、“作り手の価値観” と “買い手の価値観” が大きくズレていたわけです。

例えば、パンが500円で販売されていて「売上の1%が寄付になります」と聞けば応援したい気持ちになる人もいます。

しかしその価値の9割が「寄付」という行為にあるのであれば、極端な話パンである必要がないわけです。アイスでもいいし、クッキーでもいい。つまり、買い手が「何に価値を感じてお金を払うのか」を理解しない限り、商品は手に取ってもらえません。

この感覚を身に付けるまでが、本当に苦労しました。

 

Nobest IoTをはじめ、御社のサービスはどのようにアピールされたのでしょうか?

多くの方は「環境のため」ではなく、経済的メリットのために太陽光を導入しています。そのため、私がどれだけ「温暖化のためにやりましょう!」と言っても、誰も振り向いてはくれません。

むしろ、現場のO&M会社からは、「また新しいツールを入れるのか…使いにくかったら困る」という反応をされることもあります。

ですが、太陽光市場が健全に成長しない限り、温暖化は解決できないため、まずはO&M会社の苦しみを取り除く必要があると考えました。

こうした背景を理解した上で、相手が本当に困っていることは何か、今すぐ改善したい課題はどこか、その課題を確実に解決できるかに真剣に向き合い、「いいね」ではなく「今すぐ使いたい、今すぐお金を払いたい」と言っていただけるようなソリューションを作ることに専念した結果、段々と買ってくださる方が増えていきました。

 

今後の展望について教えてください

私が目指しているのは、インフラ事故を限りなくゼロに近づけるスマートシティの実現です。

たとえば台風や地震などの災害時、市役所の職員の方々は帰れずに庁舎で寝泊まりして対応し続けていることが多いんです。また、太陽光パネルの火災が起きた場合も、日中は漏電の危険があり消火活動ができないため、長期間にわたって鎮火できないケースがあります。その間、担当者の方は現場付近に待機し続けることになり、大変な負担がかかります。

しかし、こうした事故の多くは、実は本来なら未然に防げたはずのものです。

つまり、インフラを支える人、日々の維持管理を担う人、過酷な現場で働くO&M企業の方々の負担を減らし、“人に頼らなくても安全が保たれる” 未来の監視体制をつくっていきたいと考えています。

これは、私たちが展開している「Nobest IoT」や「Iota House(電気を買わない家)」といった取り組みにもつながっています。

もちろん主軸は太陽光やクリーンエネルギーですが、将来的には、防災、工場インフラの監視、各自治体のインフラ保全、老朽化インフラの自動監視など、より広い領域へと展開し、21世紀型のスマートシティ基盤を構築したいと考えています。

そして、インフラを支える人たちの課題を解決し、よりよい社会インフラをつくる。そのために必要なのは、一緒に未来を描ける仲間です。ぜひ一緒に未来の当たり前をつくっていきましょう。

 

他の経営者におすすめの本のご紹介をお願いします

おすすめしたいのは 『ZERO to ONE』 です。

この本は、よくある「起業本」や「自己啓発本」とは少し違っていて、未来をゼロから創るための思考法が実践的に書かれているところが特長です。エネルギー分野にも触れており、未来志向のビジネスを考えるうえで非常に参考になります。

多くのビジネスは、既存のサービスを少し改良して提供することで成立します。
たとえばパン屋さんの販売方法をオンラインに変える、製造を機械化してコストを下げるといった取り組みは、既存モデルの延長線上にある「1→N」のビジネスです。

しかし近年私が興味を持っている核融合のような領域は、「そもそも市場そのものが存在しない」「技術が未成熟」といった前提からスタートする “0→1” の世界 です。ここでは、通常の“いいね”の議論はほとんど意味を持ちません。たとえば、電気を1kWh 11円で買える時代に、核融合では1kWh 作るのに100万円かかります。しかし『ZERO to ONE』では、それでも未来があるのか? どの状態までいけば顧客はお金を払ってくれるのか? 何を検証し、どんなロードマップを描くべきなのか? といったそういった“ゼロから未来をつくる人”がどんな思考で道を切り拓くべきかを示してくれます。

 

未来をつくる人にとって大切なのは、自分が生み出したいものが、本当に世界を変えるだけの価値があるのかという問いに向き合うことです。

  • なぜそれを目指すのか
  • その未来は本当に実現可能なのか
  • 何を無視して、何に集中すべきなのか
  • どの段階で検証すべきなのか

こうした“0→1”特有の思考を、具体例とともに学べるのがこの本の魅力です。

 

既存サービスの改良ではなく、新しい未来そのものを生み出す仕事をしたい人 にとっては、ぜひ読んでほしい一冊です。

『ZERO to ONE』ピーター・ティール (著), ブレイク・マスターズ (著), 瀧本 哲史 (その他), 関 美和 (翻訳)

https://www.amazon.co.jp/dp/4140816589

 

投稿者プロフィール

『社長の履歴書』編集部
『社長の履歴書』編集部
企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。

企業出版のノウハウを活かした記事制作を行うことで、社長のブランディング、企業の信頼度向上に貢献してまいります。