今回はインプルーブ株式会社代表、尾張 伸行氏にお話を伺ってきました。
「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。
ぜひご覧ください!
会社名称 | インプルーブ株式会社 |
代表者 | 尾張 伸行 |
設立 | 2005年2月 |
主な事業 | 労働派遣事業
有料職業紹介事業 労務コンサルティング 業務請負等 |
社員数 | 46名(取材時) |
会社所在地 | 〒537-0001大阪府大阪市東成区深江北1-3-29 ツカサビル2階 |
会社HP | https://im-prove.co.jp/ |
事業内容を教えてください
インプルーブ株式会社は労働派遣事業、有料職業紹介事業などで関西を中心に全国9拠点にて展開している派遣会社です。
当社では、社是である「道徳的資本主義の追求」を核に仕事を行っています。
「道徳的資本主義の追求」とはどのようなことなのか、具体的に教えてください
「道徳的資本主義」とは、その名の通り、道徳を基盤に社会と向き合う姿勢を意味します。ここでいう「道徳」と「資本主義」には明確な違いがあります。道徳は「ギブオンリー」、つまり見返りを求めずに与えること。一方で資本主義は「ギブアンドテイク」、与えた分だけ見返りを得る仕組みです。大切なのは、この順序を誤らないことです。
多くの人は最初「ギブアンドテイク」でスタートしますが、やがて「できるだけ与える量を減らして、より多くの見返りを得られた方が得だ」と考えるようになります。それが成功していくと段々と「与えるふりをして、実際には奪うだけ」という詐欺的な行動に終始するようになります。子どもの頃は純粋に人を助けられるのに、大人になると欲深さが増し、打算的に動くようになってしまうのです。
しかし、資本主義の本質はあくまで「やった分だけ返ってくる」というトレードオフの原理です。これは重力のような原理原則と同じです。物を落とせば自然に下に落ちるのと同じく、与えた分は必ず返ってきます。逆に、原理に逆らってロケットを打ち上げるには莫大なエネルギーが必要です。同様に、原理原則に反する行動は長続きせず、大きな負担を伴います。
では、人間関係の原理原則は何かというと、「思いやり」と「感謝」です。社会は人間関係で成り立っており、会社もその集合体の一部にすぎません。社員一人ひとりがまともな人間でなければ、会社全体も健全にはなりません。
一時的に相手を欺いたり、自分たちだけの利益を優先することで成果を上げられる場合もあります。しかし、それは持続しません。会社の存在意義は「顧客を笑顔にすること」にあります。自分たちのためだけに存在するのではなく、相手を満足させるからこそ信頼が生まれ、協力が得られ、事業は継続していきます。
道徳的資本主義の根底にあるのは、人としての在り方を追求することです。欲望に流されるのではなく、原理原則に基づいて「与えること」から始める。その積み重ねこそが、企業や社会を持続的に成長させる道だと考えています。
この考えに至ったきっかけについて教えてください
私は昔から見識を広めるために、海外へよく行っていました。知り合いの1人に若くして成功している外国人の方がいるのですが、「どうやったら成功するか」と聞いたところ、「成功の秘訣は武士道精神が全てだ」と言われました。
その時の私は恥ずかしながら日本人であるにも関わらず武士道精神が何かを理解していませんでしたが、帰国後、新渡戸稲造の『武士道』や『葉隠』を読み、彼が何を伝えたかったのかをそこで理解しました。
武士道精神とは一体何なのでしょうか?
それは「道徳と精神を基軸として生きる」ということに尽きます。
現代人に「あなたにとって大事なものは何ですか」と尋ねれば、多くの人が「お金」や「命」を挙げるでしょう。命は一度失えば終わりであり、何よりも大切なものだと考えるのが一般的です。ところが、武士はそうではありません。武士が切腹を選ぶのは、自らの命よりも大切なものがあるからです。
切腹は単なる自害ではなく、自分の言動が否定された時に「自分は腹黒ではない」「正しい行いをしている」ということを命をかけて示す行為でした。武士にとって命よりも大事なものは「名誉」であり「志」なのです。
名誉とは、自分の名前が正しく残ることを意味します。悪名も名としては残りますが、悪名を背負い続けることは大きな恥であり、恥を背負ったまま生き続けることと同じだと考えられていました。つまり、武士にとって「死」とは、生命が絶たれたとき、そして名前が忘れ去られたときの二つだったのです。そのため、彼らは志高く清廉潔白に生き、良い名を残すことを何より重んじました。
このように、武士道の根底には「道徳」と「精神」があります。これは私たちの理念にも通じる部分であり、現代のビジネスに照らし合わせれば「道徳的資本主義」にあたります。すなわち、武士道の心を持ち、社会に真摯に向き合うこと。これこそが道徳的資本主義の原点なのです。
ここからは尾張社長ご自身のことをお聞かせください。学生時代はどのようにお過ごしでしたか?
子ども時代の私は勉強が嫌いでした。学校の仕組みそのものにあまり興味を持てず、「なぜ自分の興味のない分野まで勉強しなければならないのか」と常に疑問を抱いていたのです。周囲と同じことをするのが嫌いで、むしろ悪役の方に惹かれるような、少し天邪鬼な性格でした。そのため学生時代は授業中に眠っていることも多く、本格的に勉強に向き合ったのは社会人になってからです。
なぜ社会人になってから本格的に勉強に向き合ったのでしょうか?
大人になってから気づいたのは、多くの人が「大学を卒業し、会社に就職したら学びは終わり」と思っていることです。しかし私は、学生時代は人生のチュートリアルにすぎず、大人になってからこそ本当の学びが始まると考えています。子どもの頃はレールが敷かれていますが、大人になればそのレールはなくなり、自分で道を切り拓かなければならないからです。
また、哲学などを学ぶ中で強く思うのは、「人間は生きているだけで他の命を奪っている」という事実です。動物を食べるのも、植物を食べるのも同じことで、私たちは常に他の命を犠牲にして生きています。つまり、生きているだけでは社会や地球にマイナスを与えている存在なのです。だからこそ、そのマイナスを上回るだけのプラスを社会に返さなければ、生きている意味はないと考えています。
この考え方はビジネスにも通じています。自分たちだけの利益を追求する会社には誰も協力しません。大切なのは「まず相手にとってプラスであること」、そのうえで自分たちも利益を得るという、いわばWin-Winの関係です。短期的には利益を得られても、自分たちばかりを優先する会社はやがて信頼を失い、存在価値をなくしていきます。
私が人生で大切にしているのは「何を達成するか」よりも「どう生きるか」というプロセスです。一時的に嘘や詐欺で成功を収めても、長くは続きません。だからこそ私は、嘘をつかず、誠実に生きたいと思っています。実際、そのせいで悲しい思いをすることも多いですが、それでも疑うよりは素直に生きていたい。そんな信念を持って今まで歩んできました。
社長ご自身のキャリアについて教えてください
正直に言うと、学生時代はキャリアについて何も考えていませんでした。
最初の就職は18歳、高校卒業後に新卒で入った電気工事会社でした。しかし、体力的にも精神的にも未熟だった私は現場の厳しさに耐えられず、わずか3日で辞めてしまいました。当時は「実家にいれば何とかなる」「月18万円程度の給料があれば十分」という甘い考えしかなく、学生時代も部活動を辞めてからは惰性の生活を送り、心身ともに弱い状態でした。
電気工事の現場は朝も早く、立ち仕事が中心で体力的に非常に厳しいものでした。見習いとして先輩の手元作業を手伝いながら、一日中脚立の上で作業する先輩を見上げて過ごす日々は、足も首も痛く、心身ともに苦痛でした。結果として「自分には耐えられない」と判断し、すぐに辞めてしまったのです。今振り返れば良い会社だったと思うだけに、採用してくださった方々には申し訳なく、当時の自分の未熟さを悔やんでいます。
その後、23歳のときに縁あって入社したのが大手の人材派遣会社でした。ここでの経験が私を大きく変えるきっかけとなりました。
どのような環境でお仕事をされていらっしゃったのでしょうか?
いわゆる“超ブラック企業”で、朝8時から働き始めても、帰宅は早くても夜11時という生活が続きました。しかし、強制されていたわけではなく、むしろそれが当たり前とされる文化で、皆が自発的に働いていたのです。
当時の私は会社の事業内容すらよく理解していないまま面接に臨み、会社説明を受けて初めて「これは派遣会社なのか」と理解しました。アルバイトで接したことのある派遣コーディネーターの存在を思い出し、「スーツを着て働けるなんて格好良い」と感じたのを覚えています。
私が就職したのは「就職氷河期」と呼ばれる時代で、正社員の仕事は極めて少ない状況でした。その中で、高卒であるにも関わらず正社員として、しかもスーツを着て働けるというのは自分にとって「最初で最後のチャンス」だと思えました。現場仕事と比べると精神的にも時間的にも厳しさはありましたが、それでも「危険な現場の肉体労働に比べれば乗り越えられる」と感じ、必死で働きました。
実家暮らしだったので、親から「そんな会社は辞めたらどうだ」と心配されるほどの環境ではありましたが、それでも私にとっては日々が楽しく、成長の原点となる経験でした。
起業しようと思った背景を教えてください
ライバルであり親友になった同僚がきっかけです。
頻繁にやり取りをしていて、「将来は一緒に会社をやりたいよね」と語り合う関係でした。
そんな中、上層部の不正を知り、強い失望を覚えました。私は基本的に愛社精神が強く、会社のために全力を尽くすタイプですが、このときばかりは一気に気持ちが冷めてしまったのです。給料は高かったものの「ここではもうやっていけない」と思い、別の上司に誘われて転職しました。一方、彼はその会社に残り、数年後に「そろそろ一緒に会社をやろう」と声をかけてくれました。
もともと私は社長になるつもりはなく、むしろ「二番手」の立場をイメージしていました。彼が社長をやりたいと言うので、私は代表取締役専務として二人三脚でやっていくつもりだったのです。そして最初に私が社長となり、後から彼が合流して体制を入れ替える、という段取りで進めることになっていました。
ところが、合流を前に大きな意見の不一致があり、彼との関係を断ち切る決断をしたのです。
結果として私は、自ら社長として全責任を負う立場になりました。二人代表を想定していた頃にはどこかで「責任を分け合える」という依存心がありましたが、その出来事をきっかけに、初めて本当の意味で「自主性」と「自己責任」を自覚するようになったのです。
創業当初のご苦労についてお聞かせください。
創業初年度についてお話しすると、当時の私はまだ大きな課題を抱えていました。
前職では、グループ会社6社間での合併があり、いずれも規模の大きな会社で合併後は全国に百を超える営業所を抱える体制になりました。しかし、合併の目的は経費削減であり、多くの営業所が閉鎖され、多くの同僚も不当な降格などに見舞われました。私は奈良営業所の所長を務めていましたが、奈良も例外ではなく閉鎖となりましたが、仲間の援護もあり運良く大阪営業所の所長で異動できる事となりました。
ただ、その頃には会社の不正を目にしたことや先に述べた社員への不当な扱いなどもあって完全に気持ちが切れており、モチベーションを失っていました。結果として、実質的に仕事を放棄し、毎日パチンコ店に通うような怠惰な生活に陥ってしまったのです。半年近くまともに働かず、「ダメな自分」にどっぷり浸かってしまいました。給料は高かったため、パチンコで毎月20万~30万円を負けても貯金が増えていくほどでした。確かに成果は出していたのですが、内心は完全に堕落していました。
その後、上司に誘われて別の会社へ移ったものの、染みついた「ダメ人間の習慣」は簡単には抜けません。新しい環境で頑張っているつもりでも、完全に立て直すには半年の堕落に対して6倍の時間がかかりました。つまり、元に戻るまで3年近くかかったのです。
「一緒に会社をやろう」と声をかけられたときも、そしてインプルーブを立ち上げた初期の頃も、実はまだその影響を引きずっていました。結果として会社は創業初期から潰れかけるほど不安定で、本当に危ういスタートだったと思います。
創業時はリーマンショックの影響もありましたよね?
はい。ちょうどリーマンショックの影響が日本でも本格的に表れ始めた頃に起業したので、良い意味では「これ以上失うものがない」状態でしたが、悪い意味では仕事をほとんど受注できない状況に直面していました。
当時の求人誌「タウンワーク」を見ても、リーマンショック前は派遣会社の広告で埋まっていたのに、創業時に出した号での派遣の求人は、なんと私たちの広告しか載っていませんでした。それほどまでに業界全体が冷え込んでいたのです。しかも、資本金は自分の車を売ったお金を充てただけ。生活水準も高いまま収入は減り、貯金も底を突きかけていました。
そんな中でも、私は不思議な性分からか、当時同じビルに入っていた会社に助けを求められ、手を差し伸べました。「困っている人を目の前で放っておけない」という気持ちが勝ってしまったのです。
しかし、やがて資金は本当に底をつき、残り2〜3ヶ月で倒産という局面に追い込まれました。ちょうどその時、社員に支払うべき賞与の時期がやってきました。前職と同条件で雇用する約束をしていたため、本来であれば約束通りに支払わなければなりません。しかし、資金状況から考えれば支給できる余裕はありませんでした。
そのとき私の前にあったのは4つの選択肢です。
①賞与を払って潰れる
②賞与を払って生き残る
③賞与を払わずに潰れる
④賞与を払わずに生き残る
「払って生き残る」は理想論で現実的ではないと切り捨てました。「払わずに潰れる」は論外。残ったのは「払って潰れる」か「払わずに生き残る」か。私は悩んだ挙句に「払って潰れる」道を選びました。なぜなら、もし約束を破って生き延びても、その後に社員が本気で着いてきてくれるはずがないと考えたからです。結果的には、覚悟を決めて支払ったにもかかわらず、会社は奇跡的に生き残ることができました。
この経験から学んだのは、「人の本性は窮地でこそ表れる」ということです。余裕があるときに人に与えるのは簡単で、それはある意味「自分が気持ちいいからやっている」行為にすぎません。しかし真の道徳とは、余裕のない状況でも相手のために血を流す行動ができるかどうかで試されるのだと痛感しました。
実際、私はこれまでにも「お金がないのに助けてしまう」「潰れる覚悟で賞与を払う」といった判断をしてきました。結果的に助けられたことも多く、それが今の会社を支えているとも思います。結局、信念を貫いて自己犠牲で行動することで、助けてくれる人は周りに増えていく。これが私の経営の原点であり、生き方の根幹になっています。
今後の展望についてお聞かせください
インプルーブとしては、まず人材ビジネスの領域をしっかりと伸ばしていきたいと考えています。統計的にもこの市場は今後も拡大が見込まれています。ただし、将来的にはAIの進化によって、多くの職種が失われ、給与水準が大きく変動したりすることが予想されます。とはいえ、人間社会において人と人との関わりは不可欠であり、人材ビジネスそのものが消えることはありません。だからこそ、この領域は引き続き注力していきたいと考えています。
一方で、グループとして現在特に力を入れているのがインプルーブエナジー株式会社で取り組んでいる、「臭わない仮設トイレ」の開発・展開です。これは防災や災害対応に加え、建設現場やイベント会場など、さまざまな場面で高い価値を発揮できるものであり、事業を進めるにあたっての後ろめたい気持ちが見当たりません。世界的に見ても需要が見込める領域であり、多くの人に喜んでいただける事業になると確信しています。現在、インプルーブとしても大きな投資を行っており、まさに会社の将来を賭けた挑戦です。失敗すれば会社ごと揺らぐほどのリスクがありますが、それだけ本気で取り組んでいます。
そして長期的な視点で見れば、AIの進展によって「テイカー(奪う側)」が増えていく社会において、人々が本当に求めるものは「道徳」だと考えています。与える側、すなわち「ギバー」の存在こそがこれからの社会で価値を持つでしょう。今後10年以内に、「道徳」というキーワードが間違いなく強い輝きを放つ時代が来ると確信しています。そのときに「本物の道徳」と「偽物の道徳」が試されることになるでしょう。
経営者におすすめの本はありますか?
『論語』がおすすめです。道徳の基本ですので、ぜひご一読ください。
『論語』金谷 治訳注 |
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企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。
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