
今回は株式会社HACHI代表、長谷 和俊氏にお話を伺ってきました。
「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。
ぜひご覧ください!
| 会社名称 | 株式会社HACHI |
| 代表者 | 長谷 和俊 |
| 設立 | 2020年9月(創業:2020年8月) |
| 主な事業 | 動物用サプリメントの企画開発、販売 またはそれに付帯する一切の事業 |
| 社員数 | 15名(取材時) |
| 会社所在地 | 〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-1-6 日比谷パークフロント 19F |
| 会社HP | 株式会社HACHIコーポレートサイト:https://hachi-animmune.jp/ アニミューン®公式サイト:animmune.jp Note:https://note.com/8888hachi Instgram:instagram.com/animmune Twitter:twitter.com/Animmune Facebook:facebook.com/hachi.animmune |
事業紹介をお願いします
株式会社HACHIは、「成熟産業を最先端のテクノロジーと科学で新たな構造にアップデートさせる」ことをビジョンに掲げ、事業を展開しています。その実現に向けて向こう10年間注力しているのが、ペット産業です。
ペット産業は今後も成長が見込まれる一方で、すでに成熟した市場でもあり、長年の商慣習や構造的な課題、業界特有の矛盾を多く抱えています。こうした背景を踏まえ、私たちはテクノロジーやサイエンスを起点に、新しい発想やビジネスの視点を持ち込むことで、業界そのものを持続可能で健全な形へと進化させたいと考えています。
現在、その中核に位置づけているのが、当社のプロダクト「アニミューン®」です。アニミューン®は、単なる犬猫用サプリメントではなく、ペット産業全体を次の段階へ引き上げるための導入ツールとして捉えています。製品力でペットヘルスケアの進化に貢献することはもちろん、培ってきたビジネスノウハウで市場を拡大し、業界の収益性を高めることで優秀な人材が集まり、結果として業界全体の進歩につながる。その循環を生み出すことで「ペットを愛するすべての人を幸せにすること」が、私たちの真の狙いです。
株式会社HACHIは、会社経営はもちろん、製品を届けるプロセスの中でも、最先端のITテクノロジーとマーケティングテクノロジーを徹底的に活用し、業務や経営の効率化を進め、模範的な成功事例企業になることで、ペット産業に関わる企業に影響を与え、業界の構造そのものを進化させていきます。




※補足
アニミューン®とは・・・動物医療機関専売品。ペットショップやサロンなどでは一切買えない。原材料に、薬用キノコの一種でフアイア(Huaier)を配合。人で確かなエビデンスをもつ「フアイア」に含まれる有用成分「糖鎖(トウサ)TPG―1」を配合した世界で唯一の犬猫用サプリメント。人の医療において、抗腫瘍効果、抗炎症効果、免疫調整機能に効果があることが、世界中の医学誌で発表されており、その論文数は180本を超えています。数々の日本の獣医学会や研究会でも症例研究が発表されています。
長谷社長のことをお聞かせください。学生時代、将来のキャリアやビジョンをどのように描いていましたか?
正直に言うと、学生時代に明確な将来像やキャリアビジョンを持っていたわけではありません。私の家業は動物病院で、両親ともに獣医師です。どちらかといえば豊かな生活をさせてもらって、それなりの高校大学へと進み、不自由ない生活をしていた人間です。
ただ一つはっきりと自覚していたのは、「自分の人生を注げるほど心から好きだと思えるものでなければ、長く続けることはできない」という感覚です。
学生時代のアルバイトでも仕事の内容に疑問を感じたり、「もっと効率的なやり方があるのではないか」と考え始めると、その違和感を乗り越えられず、長続きしない「中二病」タイプでした。学生時代からフルコミッションの営業の仕事をしていたのですが、自分が本当に価値を感じられないものを、人に売りつけて苦しかった経験があり、それ以降は、自分が心から素晴らしいと愛するものしか売らない、と心に決めていました。
一方で、「自分の心血を注げるアイデアをビジネスにしたい」という思いはありました。しかし、経験も浅く、視野も限られていた学生の立場で寝ることも忘れて没頭できるほどのテーマを見つけることはできず、何を選んでも本気で打ち込める自信を持てなかったのが実情です。
そんな中で、強い印象を受けていた歳下の経営者の存在がありました。現在上場企業を率いる、ユニバーサルデザイン事業を手がける経営者です。幼少期から足に障がいを抱え、その経験を原点に「障がいを価値に変える」という信念を持ち続け、起業前から一貫してその想いを語っていました。実際に起業し、事業を成長させていく姿を間近で見て、「命の時間を注ぐ経営」の圧倒的強さを肌で感じていました。
そんな生き様を見せつけられる中で、私は大きな劣等感を抱くようになります。動物病院の倅に生まれ、豊かに生活に困ることなく育ってきた自分には、彼のような強烈な原体験や覚悟がない。だからこそ、何を選んだとしても「この道に命を懸ける」と言い切るだけの決断ができない、という迷いが常にありました。10代から20代前半にかけての私は、頑張りたいのに頑張れない自分を恨み、「豊かに育ててもらったことすら妬ましい」「どうすれば自分にも”これしかない”と思える道が見つかるのか」を模索し続けていた時期だったと思います。その意味では、当時の私には、明確なビジョンなどあるはずもなく、誰もが抱くような、「成功者」を目指しながらも、どこか心を込めて語れない、リーダーとして言葉に魂が宿らない、そんな劣等感と苛立ちと焦りと悔しさに塗れた毎日であったのが正直なところです。
これまでのキャリアや意思決定を振り返ったとき、どのようなプロセスを経て、結果的にペット産業に向き合うようになったのでしょうか?
私は学生時代から映像制作の仕事に携わっており、卒業後はフリーランスの映像クリエイターとして独立しました。
当時多く手掛けていたのは結婚式の動画制作です。特に、挙式当日の映像を編集してまるで映画のようなクオリティの映像をエンドロールとして流す商品は、当時まだ新しい取り組みで、その先駆けとなって制作していた部分もあります。
しかし、業界の構造には強い違和感を覚えていました。結婚式場は新郎新婦には数十万円程度で提案されている商品であっても、実際に制作を担う末端のクリエイターに支払われる報酬は、ごく一部というケースも珍しくありません。
その結果、情報に明るい新郎新婦ほど、自らクリエイターを探し、直接依頼しようとします。しかし、その場合でも「持ち込み料」として高額な費用を請求され、事実上、持ち込めなくすることがほとんどです。持ち込みを断る会場もありました。表向きは「新郎新婦の幸せのため」「最高の一日を演出するため」と掲げながら、実態は一生に1回しかない「情報非対称性」を逆手にとった搾取。本当に当事者のためになっているのか。そうした業界の在り方に、強い疑問を感じるようになりました。
実際に、私自身が信頼していた結婚式場のブランドに対しても、新郎新婦の代理として交渉に入ったことがあります。その際、「それは理念と矛盾していないでしょうか」と正面から問いかけたこともありました。結果として、業界全体の構造そのものに憤りを覚え、「この業界を根本から変えたい」と強く思うようになったのです。
一時は自らブライダル事業に参入することも考えました。実際に当時の式場のやり方に憤慨したクリエイターたちが、本当の「オリジナルウェディング」をしたいと立ち上がったあるブランドは、社会現象とも言えるブームになり、私たちもその一翼をクリエイターとして担っていました。しかし、上場企業を含む大手事業者がひしめく業界構造を本気で変えようとすれば、30年単位の時間が注ぐ覚悟がいる現実にも気づきました。当時20代後半だった私は、「この業界に人生のすべてを注ぎ込めるか」と自問したとき、そこまでの覚悟を持てない自分がいることにも正直に向き合いました。
その経験を通じて初めて強く意識したのが、「社会を変えるには、自分の人生を懸けられる領域でなければならない」ということです。業界の構造を本気で変えるには、覚悟と執念が必要であり、その覚悟を持てるテーマでなければ、最後までやり切ることはできません。
50歳、60歳になったときに後悔しない「命の使い方」とは何か。
そう自問自答を重ねた末に行き着いた答えが、ペット医療、そして動物医療の領域でした。ここであれば、自分は人生を賭けられる。己の命を賭けるだけの価値がある。そう確信し、この分野にフォーカスする決断をしました。
レガシー産業をテクノロジーで進化させたいと考えるようになった原体験を教えてください
振り返ると、幼少期から一貫して持っていた思考の癖が原点にあるように思います。
何か問題や課題が生じたとき、「こうしたいと思っている人がいるのに、なぜそれが実現できないのか」「どうすれば解決できるのか」を考え、具体的なアイデアや代替案を提示することは昔から比較的得意でした。その中でも特に相性が良かったのがITツールの活用です。
ITは、世代間で情報格差が生じやすい領域です。若い世代のほうが圧倒的に有利である一方、上の世代は資金や知見、意思決定権を持っています。その両者をつなぐ手段として、ITは非常に有効だと感じていました。実際にITツールを導入すると、驚くほど喜ばれ、現場が劇的に変わるという経験を何度もしてきました。
その感覚を強く実感したのが、映像クリエイターとして挫折を経験した後、実家の動物病院を手伝っていたときのことです。当時、スタッフは約60名、病院は4拠点に分かれていましたが、その規模にもかかわらず、情報連携がうまく機能していませんでした。拠点が複数ある中で、ある病院で発生したトラブルを解決し、「この対応を全病院で共有し、マニュアル化しよう」と指示を出しても、1カ月後には一部の病院にしか反映されておらず、同じ問題が再発する、といったことが頻発していたのです。
情報共有の手段を確認すると、連絡帳やFAXが中心でした。今から15年以上も前の話ですが、このままでは限界があると感じ、早急にIT化を進めることを決断しました。まずはスタッフ全員にiPadを配布し、リアルタイムで情報を共有できる環境を整備しました。あわせて社内ポータルサイトを構築し、誰もが必要な情報に自らアクセスできる仕組みをつくりました。さらに、各病院をFaceTimeで常時接続し、遠隔でも即座に相談できる体制を整えました。
その結果、病院運営は大きく変わりました。業務は劇的に効率化され、情報伝達の遅れや属人化によるトラブルは大幅に減少しました。そして何より、業務効率が上がることで、結果的に一頭でも多くの動物を救える環境が整ったのです。
当時24〜25歳だった私は、この経験を通じて、初めて「自分の持っている知識やスキルによって、社会や現場に具体的な価値を提供できる」という実感を得ました。これが、レガシー産業をテクノロジーの力で進化させたいと考えるようになった、私にとっての原体験です。
家業を手伝われた後、なぜ大手外資系製薬会社に入社されたのでしょうか?
製薬会社への入社理由を振り返ると、「一度は大企業、それも世界規模でトップレベルの企業の中で働いてみて、両極端を知りたい」という気持ちが大きかったように思います。
当時、私は実家の動物病院のIT化の支援だけでなく、人事や組織づくりにも関わっており、組織論や企業の仕組みに強い関心を持っていました。自分がこれまでに培ってきた考え方や経験が大企業という大きな組織の中でも通用するのか一度試してみたい。そうした思いから、「世界最大の」製薬会社という選択肢に惹かれた部分もあります。
ただ実際には、グローバル企業において、人事部門はアジア・パシフィック全体で数名という規模で構成されており、日本国内で若手が担える役割は限られていました。その結果、配属されたのは営業職でした。営業職として働くことに異論はなく、「やる以上は全力で取り組もう」と考えてスタートしました。
一方で、当時の私は「薬を売ること」そのものに強い興味を持てていなかったのも事実です。私の関心は、製品を通じて医療機関が抱える課題をどう解決できるか、という点にありました。実際に現場では、「今、どんなことで困っていらっしゃいますか」と獣医師に問いかけると、多く返ってきたのは採用や組織運営に関する悩みでした。そのため、知人が運営する採用サイト制作会社を紹介するなど、薬の営業とは異なる形で支援することもありました。
そうした中で、特に印象に残っているのが、入社後の研修で教わった「薬を売るのではなく、ソリューションを売りなさい」という考え方です。新宿の本社で約1カ月間にわたって行われた研修の中で、製品そのものではなく、その製品を通じてどのような課題を解決できるのかを考える姿勢を学びました。この考え方には強く共感し、「それなら面白い」と感じたのを覚えています。
しかし、実際に現場に出てみると、理想と現実の間には大きな隔たりがありました。多くの場合、求められるのは課題解決の提案ではなく、薬の説明そのものです。先輩社員の中にも、「ソリューション営業と言われても、正直よく分からない」と感じている方が少なくありませんでした。
この経験を通じて私は、「組織として掲げている理念や理想」と「現場で実際に行われていること」との間に生じるギャップの大きさを強く意識するようになりました。そしてこの違和感が、後に自分自身で事業を立ち上げる際の判断軸の一つになっていきます。
理想と現実のギャップを感じる中で、どのような気づきを得たのでしょうか?
その頃の私は、「もっとビジネスの視点で、経営者と向き合う仕事がしたい」と強く思うようになっていました。
単に製品を説明するのではなく、経営課題に踏み込んだ提案をしたい。その思いから、数ある動物病院の中でも、比較的規模が大きく、経営意識の高い病院の院長と積極的に話をするようになります。
その中で、特に成果を上げることができたのが、フィラリア予防に関する注射薬でした。一般的には月1回の投薬が必要な予防方法が主流ですが、この薬は年1回の注射で予防が完結します。私自身、この製品については理解も深く、自信を持って提案できるものでした。
私はこの薬を、「予防効果」だけでなく、「経営の視点」から説明しました。
この注射を導入することで、4月から8月に集中しがちな動物病院の繁忙期が平準化されます。予防が通年化されるため、特定の時期に業務が集中することがなくなり、スタッフの人員配置やシフト管理がしやすくなる。繁忙期に合わせて一時的に人員を増やし、閑散期に余剰が生まれるといった非効率も解消されます。
さらに、年間を通じて予防を行うことで、飼い主が途中で別の病院に移るリスクも減り、結果として患者との継続的な関係づくりにもつながります。こうした点を踏まえ、「病院経営にとって、非常に合理的な選択ではないでしょうか」と提案すると、特に経営者意識の強い院長から好反応があり、この切り口での提案は大きな成果につながりました。
その経験を通じて、「製品を売るのではなく、経営課題を解決する提案こそが、本質的な価値になる」という確信を持つようになります。
そして同時に、「自分が本当にやりたいのは、こうした価値提供を自らの意思で設計し、実行できる環境をつくることだ」とも強く感じました。この気づきが、結果として大きな組織を離れ、自らの事業に踏み出す決断へとつながっていきます。
株式会社HACHIは「ペットヘルスケアプロダクト アニミューン®を販売している会社」ではなく、ビジョンである「レガシー産業を最先端のテクノロジーで進化させる会社」というスタンスを明言されていますが、そもそも、これを実現するための対象としてなぜペット産業に着目されたのでしょうか?
私は2016〜2017年頃から、Apple Watchに代表されるようなウェアラブルデバイスの考え方を活用し、ペットの体温、活動量、心拍数といったバイタルサインを計測する? これまでアナログのままだった情報をデジタルデータとして蓄積し、そのデータをAIが解析することで、動物病院における診療や医療判断に活用していく未来を確信していました。
きっかけは、アメリカで参加したテクノロジーカンファレンスです。現地で目の当たりにしたAI活用の進展は、日本と比べて5年から10年は先行していると感じました。
しかし、当時の世界のペットテック市場を振り返ると、首輪型デバイスなどの製品はすでに存在していましたが、本体が大きく、価格も高額で、デザイン性や実用性の面でも課題が多くありました。実際、アメリカのスタートアップを含め、同様の分野に挑戦した企業が次々と撤退していく状況も目にしていましたし、ペットに対する予防医療や健康管理の意識も、当時はまだ十分に成熟していなかったのです。
さらに、生成AIが登場する以前は、AI開発にかかるコストが非常に高く、数千万円から場合によっては億単位の投資が必要でした。そのような規模の挑戦を行うだけの経営基盤を、当時の自分は持っていなかったのが現実です。
しかし、「いつか、すべての医療がデータ化され、AIによる自動診断される時代がくるだろう」そのアイディアだけが頭から離れず、どうすれば、人の手によるアナログな医療プロセスがデジタル化するのかを考え続けていました。
考えを整理する中で見えてきたのは、「専門家が関わる業務プロセス、特に医療は3つのプロセスに分解できる」という結論です。
どのように3つに分解できるのでしょうか?
第一段階は「計測」です。心拍数を測る、体温を測る、聴診を行う、身長や体重を測定するなど、まずは身体の状態を数値や情報として把握する工程がこれにあたります。
第二段階が「評価(アセスメント)」です。計測によって得られたデータを専門家(医師や獣医師)が確認し、それが正常なのか、異常なのかを判断する。事実としてのデータをもとに、専門家が科学的な評価を行うプロセスです。医療の場合は「診断」と呼ばれます。
そして第三段階が「解決策」、すなわち治療です。診断結果をもとに、どのような対応を取るのかを決定します。手術を行うのか、薬を処方するのか、抗生剤を用いるのか、あるいは食事の内容を見直すだけで十分なのか。こうした治療方針の決定が、この最終段階にあたります。
つまり、医療は「計測」「評価」「解決策」という三つのステップで成り立っていると考えたのです。これらすべてを同時にデジタル化はできないかもしれない。しかし、この三つのプロセスに分解して考えれば、それぞれはいずれも、ITやテクノロジーによって代替、あるいは高度化できる可能性があるということにも気づきました。
もちろん、そこには多額の資金と高度な技術力が必要になります。当時すでに技術的には実現可能な要素は存在していましたが、コストは非常に高く、市場環境もまだ十分に成熟していませんでした。そのため、すぐに取り組むべきフェーズではないと判断しました。
だからこそ私は、「来るべきタイミングで、必要な資金、スキル、経験を備えた状態になったときに、これを実現しよう」と考えるようになりました。その時期を、およそ10年後と見据えていたのです。
では、その未来に向けて当時の自分に何ができるのかを考えたところ、3つのプロセスのうち、資金も実績もなかった自分が唯一取り組める領域は、「解決策」でした。すなわち、医療に直結するプロダクトを持つことです。
まずは自らプロダクトを持ち、それを市場に届け、売る経験を積むこと。その積み重ねこそが次の挑戦につながると考えていました。
どのようなプロダクトを持とうと思われたのでしょうか?
当時の私は医療に直結する「解決策」を自らの手で持つことが重要だと考えていました。単なるアイデアではなく、現場で実際に機能し、価値を生み出すプロダクトを持つことです。
その背景には、当時すでに経営していた一社目の会社の経験があります。私はデジタルマーケティングを軸とした事業を立ち上げ、動画を活用したマーケティング支援を行っていました。そこでは、単に動画を制作するのではなく、「どのようにすれば商品やサービスを必要とする人に届けられるのか」「どのように心を動かし、購買行動につなげるのか」といったプロセスを、緻密に戦略設計し、クライアントの現場で実行し成果を出してきました。
だからこそ、まずはこの事業をやり切り、確かな実績を残す。そのうえで、自分たち自身のプロダクトを見つけ出し、世界に広げていくという構想を描いていました。
医療に関わる領域で、本質的な価値を持つ解決策をプロダクトとして形にし、それを自らの手で市場に届ける。そのための準備期間として、当時の事業に全力で向き合っていたのです。
そこから約3年をかけて事業を形にし、一定の資金を蓄えたうえで、その資金を次の挑戦へと投資していく。そうした構想を描き始めたのが、2018年頃でした。
次のプロダクトを探す中で、当時注目していたのがCBDなどの新しい素材です。アメリカではすでに一般的に使われており、日本でも市場が拡大する可能性があると考えていました。実際、若い起業家が手がけるスタートアップへの出資を、ペット向け展開を前提に検討していた時期もあります。
そうした検討を進めていた矢先、長年にわたり家族ぐるみで付き合いのある投資家から、「非常に有望な素材を見つけた」と声をかけられました。その投資家は、これまで数多くの事業を成功させてきた大変有能な人物であり、「必ず勝てる事業にしか取り組まない」慎重な人物であることを知っていました。その人物が強い確信を持っている素材であれば、間違いないだろうと考え、詳しく話を聞くことにしました。
そこで出会ったのが、後に「アニミューン®」として展開することになる素材です。この素材の可能性を知ったとき、「これが世の中に広がれば、業界をよりよく変えていく足がかりになる」と強く感じました。そして、この価値をペット医療の領域で届けたいと考え、アニミューン®の事業化を決断しました。
起業した直後の経営者にとって、最も大切なことは何だと思われますか?
一つだけ確信を持って言えることがあります。それは、「伸びるべきタイミングで、伸ばし切れない経営者は、そこで成長が止まってしまう」ということです。
売上や事業規模には、明確に「伸ばすべき局面」が存在します。そのタイミングでアクセルを踏み切れない、あるいは力のかけ方や配分を誤ってしまうと、事業は頭打ちになります。経営者に求められるのは、どのフェーズで、どれだけのエネルギーを投下すべきかを見極め、迷わずやり切る判断力だと感じています。
特に重要なのは、創業初期の数年間です。私は、最初の5年間は「死ぬ気でやる」覚悟が必要だと考えています。まずは徹底的に走り切り、事業の形をつくり、売上のベースを確立し、利益が安定して出る状態をつくる。その段階に到達してから、初めてペースを調整すればいいと思います。
一方で、最近のスタートアップ経営者を見ていて思うのは、創業初期からワークライフバランスを重視し、エネルギー配分を均等にしてしまうケースです。しかし、前半で十分な負荷をかけなければ、事業が立ち上がることはありません。少なくとも初期フェーズにおいては、バランスよりも「一点突破」が必要だと考えています。
さらに言えば、その勝負は最初の2年で決まることが多いとも感じています。同じ強度の集中力を4年、5年と維持するのは現実的ではありません。だからこそ、最初の2年で勝ち切れるかどうかが、その後の成長を大きく左右します。そこを突破できなければ、事業は大きく伸びない可能性が高い。このフェーズでは、体力だけでなく、異常とも言える集中力と突破力が求められます。そして、その壁を越えられずに立ち止まってしまう経営者が、実は非常に多いのではないかと感じています。
もちろん、私自身もその過程は決して楽ではありませんでした。想定外の出来事は次々と起こりますし、精神的にも追い込まれる場面は何度もあります。それでも、「ここで踏み切れなければ終わる」という局面で覚悟を決め、やり切る。その連続こそが、経営者として最も大変であり、同時に最も重要な経験だと感じています。
起業後、最も苦労した局面はどのようなものでしたか?
経営者として最も大きな負荷がかかっていたと感じるのは、事業立ち上げ初期の拡大フェーズです。
特に、「今ではもう二度と同じやり方はできない」と思うほど過酷だったのが、創業から最初の1年間で、動物病院1,000件への導入を目指した時期でした。
当初の事業計画では、まずは自分の足で動き、規模の大きな動物病院を100件開拓できれば合格点だろう、と考えていました。そこで一定の売上基盤をつくり、徐々に拡大していく。その程度の想定だったのです。
ところが、オンラインでの動画配信を活用できることが分かり、状況は大きく変わりました。
獣医師向けのオンライン配信媒体で動画を公開したところ、想定以上の反響がありました。1回の配信で700名から1,000名ほどが視聴し、そのうち1媒体あたり約200件の動物病院から「取り扱いたい」という問い合わせが寄せられました。さらに別の媒体からも同様の反応があり、わずか2カ月で300件近い導入希望が集まったのです。私はこの段階で、「いまがアクセルを踏むべきタイミングだ」と確信しました。
一方で、そこから先は決して順調ではありませんでした。
300件を超えたあたりから導入数は伸び悩み、課題が顕在化します。事業計画に対して組織体制が追いつきません。動画を視聴したものの、まだ取り扱いに至っていない動物病院が1,000件から2,000件ほどリストとして残っているのに何もできない。このリストを放置するのはもったいないと判断し、電話でのフォローを行うことにしました。
しかし、ここからが本当に厳しい局面でした。「動画をご覧いただいたアニミューン®の件でお電話しました」と連絡すると、「忙しいので結構です」と即座に電話を切られることも少なくありませんでした。そうした対応が続く中で、社員にも同じ役割を担ってもらわなければならず、現場の精神的な負担は想像以上に大きくなっていきました。
目標は、1人あたり1日3件の成約。2名体制であれば1日6件、月120件を取りにいく。数字だけを見れば合理的な戦い方ですが、実際には、日々100件単位で架電し続ける中で、徐々に心が疲弊していきます。成果は確かに出始め、外からは「急成長している」「勢いがある」と評価される一方で、現場の内側では、精神的な限界に近づいていました。
経営者として最も辛かったのは、その成功が「誰かの犠牲の上に成り立っている」と感じてしまったことです。
成果を出さなければ事業は続かない。しかし、そのために人の心がすり減っていく。この現実にどう向き合えばいいのか、当時の私は明確な答えを持てず、ただ苦しさを抱え続けていました。
今振り返ると、それは経営者としての未熟さでもありましたが、「成長」と「人」のバランスをどう取るのかという問いに、真正面から直面した最初の経験だったと感じています。
苦しさを乗り越えた先で、どのような成果を得られたのでしょうか?
必死に走り続けた結果、明確な一つの節目を迎えることができました。
アニミューン®の発売は10月でしたが、翌年の10月1日に「成果発表会」を設定し、そこまでに取り扱い動物病院1,000件を達成することを目標にしていました。
ところが、発表会直前の9月30日時点で、取り扱い件数は997件。
目標まで、あと3件足りない状況でした。夕方18時頃、「どうするか」と全員で向き合い、「ここまで来た以上、必ず達成しよう」と最後の力を振り絞りました。そして、その日のうちに残り3件を積み上げ、最終的に1,000件の取り扱いを達成することができました。
その瞬間は、それまで積み重ねてきた苦労や葛藤、私自身が「犠牲だったのではないか」と感じていた出来事も含め、すべてが報われたように感じました。チーム全員で涙を流しながら喜び合い、「本当にやり切った」と心から思えた経験でした。
ただ一方で、冷静に振り返ると、このやり方をそのまま続けることには限界があるとも強く感じました。営業会社であれば日常的に行われている手法かもしれませんが、私は製薬メーカーで営業を経験していたとはいえ、本格的な営業組織をゼロからつくり、同じ負荷をかけ続ける経営には、強い違和感を覚えるようになっていました。
そこで私は、この経験を一つの区切りとして、「営業を前提としない成長モデル」へと舵を切る決断をします。具体的には、マーケティングの自動化を進め、社員が直接会わなくても、「取り扱いたい」と自然に声が上がる状態をつくることを目指しました。営業が最後の一押しをするのではなく、意思決定が完了した段階で初めて人が関わる。そのレベルまで仕組みを磨き込んでいったのです。
この最初の1,000件達成までのプロセスは、経営者として最も過酷であると同時に、その後の事業の在り方を大きく方向づけた、忘れられない経験でした。これが、私にとって最初の「大きな壁」であり、最初の大きな成果でもあります。
他にも経営者として直面した大きな壁はあったのでしょうか?
もう1つあります。それは、「マーケティングの自動化(MA)によって営業をなくす」という構想に取り組んだときのことです。この構想を周囲に話した際、返ってきた反応はほぼ例外なく否定的なものでした。
製薬メーカーの世界を知る人であればあるほど、「それは絶対に無理だ」「医療業界は訪問営業が前提だ」「メールやオンラインだけで人が動くはずがない」「担当制を敷かなければ信頼関係は築けない」といった意見が並びました。実際、これまで経営の相談に乗ってもらっていた先輩経営者たちからも、「それだけはやめたほうがいい」と強く止められました。
誰も賛同してくれない。誰も具体的なアドバイスをくれない。成果がでなければ経営者をおりた方がいいんじゃないだろうかという自問。そんな状況の中で、「それでもやるのか」「やはり方向を変えるべきなのか」と、自分自身に何度も問いかける日々が続きました。それでも最終的に選んだのは、「成果が出るかどうかは分からないが、出ると信じてやり切る」という決断でした。
実際に仕組みやシステムが形になり、稼働し始めるまでの2カ月間は、精神的に最もきつい時間だったと感じています。期間としては決して長くはありませんが、成果がまったく見えない中で、周囲から否定され続ける状態は、想像以上に重いものでした。
しかし、結果が出た瞬間、周囲の評価は180度変わりました。それまで批判的だった声は消え、「よくやった」「すごい取り組みだ」と称賛に変わっていったのです。
その変化を目の当たりにして、私に適した経営スタイルは「完成イメージがあるなら、それを信じて、何を言われても耐え、やり抜くことだ」と、強く実感しました。
MBAにあるような論理的に説明ができる正攻法や、過去の成功事例をなぞる挑戦であれば、周囲は安心して応援してくれます。しかし、誰もやったことがないことに挑む場合、最初に待っているのは理解ではなく、否定と嘲笑です。それでも信じて進み続ける。その「表に出ない期間」を越えられるかどうかが、結果として大きな成果を生むか否かの分かれ目になるのだと思います。
振り返ると、この二つ目の壁を乗り越えられたことが、事業を次のフェーズへ押し上げる決定的な要因だったと感じています。
レガシー産業を進化させるために、どのような未来を描いていますか?
大きく二つの軸があります。
一つは、これまでと同様に、サイエンスの領域で本質的な価値を持つものを見極め、動物医療の現場に持ち込み続けること。
もう一つは、AIをはじめとしたテクノロジーの活用です。
人類が積み上げてきた膨大な知を、医療に活用しない理由はありません。これは、10年以上前から描いてきた構想でもあります。まずはソリューションを持ち、その次にAIを活用した事業展開をしていくことを見据えています。
そして、これらがすべて完成したとき、ペット医療業界の構造は大きく変わると考えています。広告業界をGoogleやFacebookが変えたように、医療の在り方や、飼い主がプロダクトを選ぶ基準そのものが変わっていく。その中心に、データプラットフォームとしてのHACHIが存在する未来を描いています。時間軸としては、5年程度で構造的な変化が起こると見ています。10年もかけるつもりはありません。
また、ここまであまり詳しく触れてきませんでしたが、アニミューン®という製品自体も非常に価値の高いプロダクトだと考えています。
私はよく「テクノロジー」という言葉を使いますが、同時に「サイエンス」という表現も大切にしています。どちらも広い意味ではテクノロジーですが、アニミューン®は、最先端のサイエンス研究の成果から生まれた製品です。
アニミューン®の中核となっているのが有効成分「フアイア」に含まれる「糖鎖」という成分ですが、これの研究が本格的に進み始めたのは2000年代に入ってからで、まだ研究の歴史は20年ほどしかありません。近年になって、糖鎖が免疫やがんなど、さまざまな生命現象に深く関与していることが明らかになってきました。
現在、糖鎖を医療に活用する研究は世界的に非常に活発です。特にアメリカと中国では、政府レベルで国家戦略として巨額の投資が行われています。一方で、糖鎖研究の基盤となる技術そのものは、日本人研究者によって確立されたものであり、もともとは日本が世界をリードしていた分野でもあります。しかし、その後、日本国内での研究や社会実装はやや遅れを取ってきたのが現状です。
私は、この最先端のサイエンスを改めて日本に持ち込み、さらにペット医療という領域に応用することに大きな意義があると考えています。糖鎖という新しい医療の潮流を、動物医療の現場に届け、「これからの医療はこう変わっていく」という未来像を、獣医師の先生方と共有しながら広げてきました。
その結果、現在では、動物医療における糖鎖活用という点において、日本は世界でも最先端の位置にあると自負しています。そして、その中心に株式会社HACHIが存在していることは、非常に大きな意味を持つと考えています。
おそらく10年後には、糖鎖は医療の中で当たり前のように使われる存在になっているでしょう。そのとき、私たちは「糖鎖医療のイノベーター」として、この分野を切り拓いてきた存在として語られるのではないかと考えています。
今後もHACHIとしては、こうした最先端のテクノロジー、そしてサイエンスを動物医療の業界に持ち込み続けることを変わらずにやり続けていきたいと考えています。それこそが、レガシー産業を進化させ、より幸せで快適な世界を実現するための、私たちの役割だと信じています。
フアイアを超える原料が、今後現れる可能性はあるのでしょうか?
結論から申し上げると、現時点では、フアイアを超える原料は存在していません。
ここで言う「超える」とは、感覚的な話ではなく、明確な科学的基準に基づくものです。
具体的には、1,000人規模のヒト臨床試験を実施し、統計的に有意な差が確認されているかどうか、あるいは、そのレベルの試験が現在進行中であるかどうかを指しています。こうした臨床試験は、倫理的な観点からも厳格に米国政府機関により管理されており、研究開始前に研究デザインを米国政府機関へ届け出て、データベースに登録する仕組みが整っています。後から研究内容を書き換えたり、都合の良い結果だけを切り取ったりすることはできません。(ClinicalTrials.gov)
これらのClinicalTrials.govの公開データベースを確認すれば、現在どのような臨床試験が進行中で、どの試験が被験者を募集しているのかはすべて把握できます。その上で見ると、漢方、生薬、サプリメント、いわゆる健康食品と呼ばれる領域において、フアイアと同等、あるいはそれを上回る水準の試験を行っている素材は、現時点では皆無です。
仮に、今日この瞬間に同レベルの臨床試験を開始したとしても、論文化され、科学的に評価されるまでには少なくとも5〜6年はかかります。つまり、少なくとも向こう数年間は、このエビデンスを超える素材が市場に現れる可能性は極めて低いと考えています。その意味で、事業としても、プロダクトとしても、現時点で競争に負けるとは考えていません。
実際、日々さまざまな原料の提案を受けますが、科学的な裏付けという観点で見ると、納得できるものにはほとんど出会えていないのが正直なところです。もし、サイエンスの視点で本当に価値があると判断できる素材があれば、徹底的に検証したうえで、この業界に広げていきたいと考えています。
最後に、他の経営者におすすめする書籍のご紹介をお願いします
求職者や組織づくりまでを視野に入れるのであれば、私がおすすめしたいのは『GRIT やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』です。
ビジネスにおいては作戦が多少間違っていたとしても、「やり抜く力」を持った人が集まる組織(自己効力感の高い組織)であれば、驚くような成果を出せると私は考えています。その点で、この本には非常に強く共感しています。
『GRIT(やり抜く力)』の中で語られているコアメッセージは、「目的に対する強い執着心」と「手段の柔軟性」を両立させることです。
言い換えれば、目標そのものには徹底的にこだわる一方で、そこへ至る方法は状況に応じて柔軟に変えていく、という姿勢です。表現としては強く聞こえるかもしれませんが、「目標を達成するために、手段を固定しすぎない」という考え方だと捉えています。
組織として成果を出すためには、「こうすればいけるのではないか」「別の登り方があるのではないか」と、手段を考え抜く姿勢が不可欠です。その思考を組織全体で共有できたとき、初めて結果につながっていくのだと思います。
私は日々、患者がなかなか集まらないと悩む獣医師や動物病院の院長と接していますが、話を聞いていると、不満や愚痴ばかりが先に立ってしまっているケースも少なくありません。しかし実際には、テクノロジーやツールを活用すれば、状況を変える選択肢は存在します。重要なのは、それを「やるか、やらないか」です。
選択肢を提示したときに、実際に行動に移すのかどうか。その差を生むのが、まさに「GRIT」だと思っています。目的に対してやり抜く力を持つ人や組織は、結果として成長していく。そのベースとなる考え方が、この本には詰まっていますので、ぜひご一読ください。
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