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富士ベッド工業株式会社代表 小野 弘幸氏

  • 11/18/2025
  • 11/14/2025
  • 仕事
  • 30回

今回は富士ベッド工業株式会社代表、小野弘幸氏にお話を伺ってきました。

「社長の履歴書」だけの特別なインタビューです。

ぜひご覧ください!

 

会社名称 富士ベッド工業株式会社
代表者 小野弘幸
設立 1957年2月1日
主な事業 寝具、寝装品の製造、インテリア・ベッド用品、リビング用品の製造、ベビー用品の製 造、ホテル関連寝装品の製造、上記商品の企画・開発(特に枕に関しての研究・開発に主力)
社員数 55名(男13名 女42名) ※パート・派遣含む(取材時)
会社所在地 東京都大田区北千束 2-17-10
会社HP https://fujibed.com/

 

事業紹介をお願いします

富士ベッド工業株式会社は、今年で創業68年を迎える寝具メーカーです。社名の「富士ベッド」が示すように、創業当初はベッド用マットレスの製造からスタートしました。

しかしながら、当時の市場ではマットレスの普及が進んでおらず、販売が伸び悩む時期がありました。そこで創業者は、そのマットレス素材を活用して日本初の機能枕「実用新案枕」を製造。これが、現在まで続く“枕づくり”の原点となりました。

 

 

 

その後、布団やカバー類など幅広い寝具製品を手掛けつつも、「自社の独自性を追求できる商品」として、再び枕に特化する方針を決定。2023年には、枕専用の自社工場を新設し、研究開発から製造までの一貫体制を構築しました。

https://www.youtube.com/watch?v=Bmi_cnpFvdI

 

現在では、公式ECサイトを通じた直接販売にも力を入れ、ユーザーの声をダイレクトに商品開発へ活かせる仕組みづくりにも取り組んでいます。

当社の強みは、68年にわたるものづくりの経験と知識に加え、近年では大学や専門機関と連携しながら、枕の効果を可視化する取り組みを進めている点です。10年ほど前からエビデンス取得を本格化し、現在ではすべての商品に科学的な根拠を持たせた製品開発が可能になりました。

こうした「歴史と技術の蓄積」「可視化された安心感」が、他社との差別化要素となっています。

 

最も注力している取り組みはありますか?

当社が現在、最も力を入れているテーマは「横寝(横向きで寝ること)」です。

私が入社した33年前、まだ枕の商品価値は“袋に中身を詰めただけ”といったレベルのものが一般的でした。しかし当時から当社では医師や大学研究者と連携し、首から後頭部の自然なカーブを再現できる“立った姿勢のまま横になれる枕”を提唱してきた結果、その考えは「仰向け寝」において広く定着してきたと感じています。

そして現在、私たちが次に着目しているのが「横向き寝」です。横向き寝が身体に与える影響については、まだ理解が進んでいない領域ですが、実は、就寝中には1日平均20回ほど寝返りをうつと言われています。そのたびに横向きの姿勢が取られているものの、最適な高さや角度に対応する枕はほとんど存在しません。

そこで当社では約10年前から大学と共同で専用の測定器を開発し、「横寝時に最も快適で負担のかからない姿勢」を科学的に研究。その研究成果を反映させた枕が、「YOKONEGU(ヨコネグ)」です。

 

 

「横寝」の価値を広めることで、より質の高い睡眠を多くの人に届けたい。その想いと研究の積み重ねが、この新商品に込められています。

 

商品の詳細は下記サイト、SNSをご参照ください。

自社サイト:https://cocochifactory.com/

楽天サイト:https://www.rakuten.co.jp/cocochi-factory/

X:https://twitter.com/CocochiF

Instagram:https://www.instagram.com/cocochi.factory/

 

ここからは小野社長のことをお聞かせください。どのような子ども時代を過ごされたのでしょうか?

実はあまり話してこなかったことなのですが、私は生まれつき気管支が弱く、鼻から息を吸うことが難しいほどでした。喘息のような状態が続いていたため、季節ごとの長期休暇は必ず空気の良い長野県にある親戚の家で過ごしていました。

親戚の家は農家だったこともあり、毎朝畑に出て、10時になると熱いお茶とスイカでひと息ついたりと、自然とともに暮らす毎日でした。当時は冷たいジュースなどなく、暑い日はトマトで水分補給をしたことを鮮明に覚えています。

幼少期から大人と過ごす時間が多く、親戚のおじさんやおばさんたちとの会話が中心の日々だったためか、どこか大人びた考え方や言葉遣いをしていたかもしれません。当時は同世代の子どもたちと遊ぶことは少なかったと思います。

その後、中学・高校時代は野球部に所属していました。真剣に取り組んでいたものの、打ち込むというよりは「ほどほど」のスタンス。ただし、中途半端に終えるのが嫌いな性格だったため、一度始めたからには最後まで取り組むという意志は持っていました。

 

最初のご就職先について教えてください

大学卒業後、建設会社に入社しました。というのも、私の祖父が工務店を営んでおり、幼い頃からその仕事を手伝う機会が多く、自然と建築に関する知識が身についていたためです。家づくりは奥深く、大変魅力的な分野であると感じていました。

将来的には祖父の後を継ぐことも視野に入れていたのですが、富士ベッド工業株式会社の創業者である芦垣慶一さんから声をかけていただいたことがきっかけで、ご縁を感じ、この会社に入社することになりました。

 

建設と枕・寝具業界はまったく異なる分野ですよね。転職の決め手を教えてください

そうですね。仰る通り建設業と寝具製造はまったく違う世界です。ただ、芦垣さんはとても人格者で、人として大きな魅力を感じていました。

私は若い頃、好奇心が旺盛で、どちらかというと1つのことにのめり込むタイプではありませんでした。そんな性格を理解しながらも「一緒にやってみないか」と温かく声をかけていただいたのです。お話を重ねる中で、「この人のもとで働いてみたい」と心から思うようになり、思い切ってこの業界に飛び込むことを決断しました。

 

実際に入社したときの印象を教えてください

正直、最初はかなり驚きました。というのも、それまでいた建築業界は「1ミリのズレも許されない」という非常に精密さを求められる世界でしたが、繊維業界は「許容範囲」が存在します。例えば縫製において「このぐらいの縮みや誤差は想定内」という文化があり、それがどうしても最初はなじめませんでした。

また、当時の繊維業界は“古き良き昭和”の雰囲気そのままで、男性中心、年齢層高め、そしてどこか頑固な職人気質が色濃く残っていました。若手にとってはなかなか受け入れにくい環境だと思いますし、私自身も「背中を見て覚えろ」という空気には少なからず抵抗を感じました。

だからこそ、今の自分たちの世代では同じ状況を繰り返さないよう、働きやすい職場づくりを心がけています。その点は創業当時とは大きく変わってきていると感じています。

 

建設業界でのご経験が、現在のお仕事に活かされていると感じる部分はありますか?

自分で言うのもなんですが、私はかなり几帳面な性格で、建設業界にいた頃から「物を綺麗につくる」ことには強いこだわりを持っていました。建築業界で培った精神が今でも根付いていて、枕や寝具の製造においても「とにかく仕上がりは丁寧に、きれいに」という姿勢を常に大切にしています。

「できる限り完成度の高い製品をつくる」という建築時代からの意識は、今も自分の中で生き続けています。その価値観は社員にも浸透していると感じていますし、「長く使っていただける製品を丁寧に作る」という姿勢は富士ベッド工業としてのブランドにもつながっていると思います。

 

 「PILLOW MUSEUM」にあるコレクションは、研究のためにもともと集められていたものなのか、それとも博物館設立のために収集されたものなのか、どちらだったのでしょうか?

創業当時から「枕で日本一になろう」という強い思いを持って事業運営をしてきた中で、「昔の枕はどんなものだったのか」「世界にはどんな枕があるのか」といった好奇心から調べていくうちに、自然と枕の形跡や実物が集まっていったと聞いています。

私が入社してからは、「せっかくならもっと増やしたい」と思うようになり、収集の幅を広げてきました。現在も「枕の歴史」を紐解きながら、研究と展示の両軸でコレクションを増やしています。枕は睡眠にとって欠かせない存在のため、その背景や文化を知ることで、よりよいものづくりにもつなげられると考えています。

 

枕博物館の詳細はこちら→https://fujibed.com/pillow-museum/

 

昔の枕はどのように集めてこられたのでしょうか?

昔は骨董品店などに足を運んで探すことも多かったのですが、この10年ほどはそうした店舗自体が減ってしまい、今はほとんど利用していません。また、人づてに「これは枕ではないか」と持ち込んでいただくケースもありましたが、現在はそれすらも減ってしまいました。

当時は、「これは枕だ」と言われて持ち込まれたものが、実は非常時に使う“膝掛け”だった、という面白い勘違いもありました。それでも「枕」と聞けば快く購入して、コレクションを増やしてきたという経緯があります。

今では、しっかりと枕としての歴史的価値や形状を見極めたうえで、博物館として収集・展示を行っています。

 

昔の枕から学んだことや、商品に活かした点はありますか?

枕の歴史を振り返ると、そもそも人が二足歩行を始めた頃から「頭を支えるもの」として存在してきたと言われています。たとえば、手を枕にしたり、石を使ったりといった原始的な形から、時代に合わせて少しずつ姿を変えてきたわけですが、根本的な役割は今も昔も変わっていません。

そのため、昔の枕は現代においても十分参考になりますし、否定すべき点はほとんどないと考えています。むしろ、当時の生活環境や体格に合わせて工夫されていた部分は、今も学べるところが多いですね。

ただ、現代は体型や住環境、睡眠スタイルが大きく変化しているため、「そのまま再現してよいか」というと、必ずしもそうではありません。たとえば、昔の女性が髪型を崩さないように横を向いて寝るための“高枕”などは、現代でも用途によっては有効ですし、昼寝用の枕として現代的なアレンジを加えれば新たな価値を生み出す可能性もあります。

つまり、「昔の枕=古いもの」という認識ではなく、「必要があって使われていたもの」という視点から、現代に合う形で再解釈すれば、新しい商品開発のヒントにもなると考えています。

 

江戸時代の枕を復刻されたと伺いました。どのような枕なのでしょうか?

実は最近、「箱枕」という江戸時代の枕を現代版として復刻、伝わりやすいよう「江戸まくら」と命名して、販売を始めました。

 

 

 

箱枕というのは、当時の人々が使っていた木製の台座に「括りまくら」というそば殻などを詰めたまくらをセットした枕で、特に髪を結い上げていた女性や、ちょんまげを結っていた男性が、寝ている間に髪型を崩さないために使っていたものです。

特徴はその高さにあり、現在の枕とは比べ物にならないほど高く設計されています。そのため現代の方が実際に枕として使用すると、寝違えたり、首に負担を感じてしまったりと、実用的とは言えないのが正直なところです。

では、なぜそれを作ったのかというと、「枕=寝具」という枠を超えて、インテリアとしての価値を見出したからです。旅館の装飾として、またお部屋のアクセントとして置くだけでぐっと趣が出るという意図で商品化しました。まだ発売したばかりで、実はまだ1個も売れていないのですが(笑)、今後に期待しています。

 

 

また、近隣の小学校の社会科見学で会社に来てくれる子どもたちに、歴史ある枕として紹介しているのですが、その中には「これ、寝やすいです!」というお子さんもいて、驚かされることもあります。

 

子どもたちに枕の面白さが伝わるのは嬉しいですね

本当にそうですね。枕というものに興味を持ってもらえることこそが、私たちにとっては何よりも嬉しいことだと感じています。誰かに与えられるのではなく、「自分で選ぶ」という体験を通して、子どもたちが「こういう枕が良いんだ」と思えるきっかけになればいいなと感じています。

実際に原材料を触ってみたり、製造工程を見学したりするとみんな目を輝かせてくれるんです。そういう時間を楽しんでくれた子どもたちが、いずれ家に帰って「こんな枕見たよ」と話してくれたら、そこからまた新しい興味が広がっていくはずです。

そしてその子たちが大きくなり、自分の家族や子どもにも、「この枕いいよ」と伝えてくれたら、それほど嬉しいことはありません。枕が暮らしの中で、少しずつ世代を渡ってゆく。そんな未来を想像すると、やはり続けていくことに意味があると感じますね。

 

会社見学では実際に体圧分散確認機を使うとのことですが、子どもたちの反応はいかがですか?

とても盛り上がります。寝そべって「どこに負荷がかかるんだろう?」と試してもらうのですが、子どもたちは興味津々で、時には3、4人同時に座ったり寝転がったりと、自由奔放です。それがまた面白さにつながるんですよね。こちらが想定していない反応や、思わぬ使い方をする姿に、私たち自身も新たな発見をさせてもらうことがあります。

そういう意味では、「正しい使い方」や「測定の意図」を押し付ける必要はないと感じています。体験を通して「こんなことができるんだ」「こんな反応が出るんだ」と楽しんでもらえれば十分です。

また、今年の12月には、赤松小学校と大田区とで連携した「ものづくりの授業」に参加予定です。小学6年生の子どもたちと一緒に「理想の枕づくり」に挑戦するプログラムなのですが、この取り組みでは、あえて「こうあるべき」といった固定観念を押し付けず、自由な発想で枕を作ってもらおうと思っています。

小学生はまだ成長過程ですので、枕の高さや形が厳密に合っているかどうかよりも、「寝ることって楽しい」「自分で選ぶって面白い」と感じてもらうことが大切だと考えています。スマホやゲームよりも「早く寝たい!」と思えるような枕が作れたら最高ですね。また、この授業を通して理想の枕が完成し、それが商品化されれば、きっと子どもたちにとっても特別な経験になるのではないかと考えています。

今回の連携は、地元とのご縁があって実現したものです。私自身、3人の子どもがおり、いずれも近隣の小学校にお世話になりました。そうした日頃のご恩に、ものづくりという形で少しでもお返しできればと思っています。

地域とのつながりを大切にしながら、「寝る時間が待ち遠しくなるような枕」を一緒に考え、広めていくことは、私たち富士ベッド工業の使命のひとつだと感じています。

 

社長就任のお話は、いつ頃から具体的に進んだのでしょうか?

私は3代目にあたりますが、正式に「継いでほしい」と言われたのは、芦垣さんが亡くなる約1年前のことでした。

ちょうど病院でお見舞いをした際に「小野くんに任せたい」と推薦の言葉をいただきました。そのときはすでに思うように話せない状態で、直接のやりとりはごくわずかでしたが、その言葉の重みは今でもはっきり覚えています。

翌年、私の前任である2代目の社長から遺言書を手渡された後に、正式にバトンを引き継ぐこととなりました。あの瞬間は、喜びというより責任の大きさをずっしりと感じたことを覚えています。

 

社長就任後、最初に直面した試練は何でしたか?

社長に就任して真っ先に直面したのが、自社工場建設と新型コロナウイルスの感染拡大という2つの大きな難題でした。

工場計画を進めていた矢先、ウクライナ情勢に伴って資材価格が急騰。見積もり時の1.5倍に跳ね上がり、すでに契約書へ押印済みだったため引き返すこともできずに大きな負担を抱えることとなりました。

そしてコロナ禍では全国的なロックダウンで販売チャネルが一気に止まり、OEM供給中心だった当社はまさに直撃を受けました。
社員には自宅待機を要請し、私はひとり会社に出社して新聞を読みながら先行きを模索する日々がしばらく続きました。

コロナ前はある程度の売上予測も立てられましたが、以降は「積み上げでしか見えない」状態に。日々の努力がそのまま業績に直結するという、経営感覚の転換を余儀なくされました。

その後、EC中心の企業が右肩上がりで成長する様子を横目に見ながら、当社もオンライン自社販売の強化に着手。ようやく現在は工場も完全稼働し、落ち着きを取り戻しつつあります。

あの頃を振り返ると、予測不能な状況下で「とにかく進むしかない」という感覚でした。今思えば、あれが経営者として最も肝を試された局面だったのではないかと思います。

 

ECサイトの本格展開はコロナ禍がきっかけだったのですか?

はい、そうです。それまでもECサイト自体は細々と運営していたのですが、手探りの状態でした。本格的に取り組むようになったのは、新型コロナウイルスの影響で実店舗の売上が大きく落ち込んだ時期からです。

当社はOEMでの実店舗向け販売が多く、コロナで店舗が閉まるとそのまま売上も止まってしまいました。このままでは事業が立ち行かないという危機感から、「自社でECサイトをしっかり育てなければ、これから先は成り立たない」と考え、EC事業に本腰を入れたという経緯があります。

今では自社工場を稼働させ、ECサイトを中心に自社商品を展開する体制が整ってきました。コロナ禍は大変な時期でしたが、当社にとってEC強化の大きな転機になったと感じています。

 

貴社内で創業時より根付いている文化はありますか?

当社では、「毎日枕の試作を行う」という取り組みを日々の業務として続けています。これは単なるルーティンではなく、創業から続く“社風”として根付いた文化として現在でもその姿勢が継承されています。こうした日々の試作があるからこそ、年間を通じて多様な新商品を生み出すことができています。「YOKONEGU」をはじめとする当社の製品は、「こんな枕があったらいいのに」という生活者の声を、スピーディーにかたちにしてきた成果です。

たとえば、最近では「女性の髪にやさしい商品を」というニーズを受け、シルク素材を使ったナイトキャップや枕カバーの開発を、美容師の意見を取り入れながら進めています。また、社内では定期的に「ベビーコンセプト会議」を開催し、社員間でアイデアを出し合い、アンケート形式で優先度を決定しながら、新商品開発を推進しています。これにより、生活者の悩みに寄り添った柔軟な商品開発力が培われていると自負しています。

さらに、当社ではOEM案件のご依頼も多く、「相談があればすぐに試作品をつくり、ご提案する」というスピード感を大切にしています。現在では、試作依頼から納品まで約2週間を目安にし、常に複数の試作プロジェクトが同時に進行している状況です。一方で、自社ブランドの商品については、年2回程度参加している大型の展示会を基準に開発を行い、毎回5〜6点ほどの新商品をリリースすることを目標としています。その中で反響の良い商品が定番化されていきます。このように、「毎日の試作」の積み重ねが、OEMにも自社商品の開発にも活かされていることこそが、当社の大きな強みだと感じています。

 

本当にお客様の目線を考えながら、そして御社の中でもちゃんとエビデンスに基づいていいものを出していく、その両軸がしっかりされていらっしゃるんですね

ありがとうございます。仰っていただいたとおり、「お客様目線」と「エビデンスに基づく機能性」の両立こそが、当社の強みだと考えています。試作段階からユーザーにとっての使いやすさを意識しながら、一方で大学や医療機関と連携し、データを活用することで商品価値を裏づける取り組みを続けています。

ただ最近では、作れるからといって何でも作るのではなく、商品ラインに対してより戦略的な絞り込みも必要だと感じています。新しい商品の価値を生活者にしっかり届けるには、開発力だけでなく、情報発信やブランディングの力も問われます。その両面のバランスを丁寧に考えながら、次の一手へつなげていきたいと思っています。

 

経営者としてお仕事をされる中でのやりがいはどういった部分に感じていらっしゃいますか

そうですね。やりがいを強く感じるのは、やはり「自分たちがつくった枕を、ひとりでも多くの人に使っていただくこと」です。現在は会社として「枕で日本一を目指す」という方針を掲げ、それを朝礼でも10カ年計画として繰り返し伝え続けています。

たとえ小さな商品であっても、人の眠りや健康に寄り添い、快適な日常を支えることができる。その実感が得られることこそ、経営者としての大きなやりがいだと感じています。

また、もうひとつのやりがいは「人と関わること」です。社員の顔を見て「おはよう」と声をかけたり、ときには話を聞いたり、雑談をしたり、そうした日々の積み重ねが、会社という”場”を開き、働く人にとっての居場所をつくっていくのだと思います。社員それぞれの機嫌も、性格も、仕事の向き合い方も違いますが、そんな個性と向き合いながら共に働けることが、今の自分にとっては大切な喜びです。

 

今後の展望を教えてください

私たちは「枕で日本一」を目指しています。生産量でも技術力でも日本一になることが、現時点で掲げている最大の目標です。その実現に向け、まずは枕への集中投資と強化を続けていく考えです。

そして、次に重要だと感じているのが「社員教育」です。

企業は、社長ひとりでは何も成し遂げられません。過去には「社内にスーパーマンがひとりいればなんとかなる」と言われていた時代もありましたが、今は違います。個の力よりも、組織力こそが企業の強さとなる時代です。

そのため、当社の社是である「信頼」に基づき、社員と共に協力しあえる組織づくりが不可欠だと考えています。社員一人ひとりが誇りをもって仕事に向き合えるよう、次の10年を見据えた人材育成にも力を入れていきたいと思っています。

つまり、私たちが目指すのは「技術力日本一の枕メーカー」であると同時に、「人を育てる会社」であり続けることです。社員と共に未来をつくる──それこそが、この会社を次のステージへと導く鍵だと考えています。

 

一緒に働きたい人の人材像を教えてください

面接の際、私が「一緒に働きたい」と思える方は端的に言えば「一緒にやっていこう」と思ってくださる方です。それがひとつの基準と言えるかもしれません。

学歴やこれまで学んだ内容、経験などに関しては、人それぞれ異なるのが当たり前ですし、そもそも働き方も個性も多様であるべきだと考えています。それらを踏まえた上で、「この会社で成長したい」「仲間と良いものを作りたい」と能動的に思えるかどうかが、一番大切なポイントです。

社員がどう成長していくかは、上司や会社の環境次第で大きく変わります。社長である私たち経営側が、どう育てるか、どんな環境を与えるかによって、社員の可能性はどこまでも広がっていくと感じています。

ですので、「富士ベッド工業の理念や雰囲気を理解して、共に歩んでいきたい」と感じてくださる方であれば、どなたでも歓迎ですし、実際にこれまでそうした想いのある方と一緒に歩んできました。

 

若手ビジネスマンへのメッセージをお願いします

先ほどもお話ししましたが、まずは「同じ方向を向いて歩んでいくこと」が大切だと思います。そしてもう一つ、若い世代の方々には「心を鍛えてほしい」と強く感じています。

毎日社員と接していると、朝の気分が沈んでいる人もいれば、明るく元気な人もいて、1時間ごとに雰囲気が変わることもあります。そうした中で、仲間との関係や職場での出来事に一喜一憂してしまう人も多い。しかし社会で生きていくうえでは、どんな環境でも自分を支える“心の強さ”が必要だと思うんです。

当社では、新卒採用はあまり行っておらず、社会を一度経験した方を採用することが多いのですが、その中で「一度は苦しい経験をした」「悩みながらも次に進もうとしている」という方に多く出会います。そうした経験を経て、自分の軸を持ち、次のステップを前向きに考えられる──その姿勢こそが何より大切だと感じます。

誰かに言われたから動くのではなく、「自分はどうしたいのか」「どんな人生を歩みたいのか」を自分の言葉で考え、選択できる人になってほしい。そうした若い方々と一緒に仕事ができたら、本当に嬉しいですね。

 

他の経営者におすすめの本のご紹介をお願いいたします

私が経営者として大きく考え方が変わったきっかけとなったのが、『言葉の氣力が人を動かす』という一冊です。読み始めたのは、30歳頃。仕事迷いを感じていた時期に、創業者から「これを読みなさい」と手渡された本でした。

読む前と後では、自分自身の考え方がまったく変わったと感じています。読む前は、いつものルーティンをこなす日々で、やりがいを感じることが少なかったのですが、この本を読み、腹落ちしたことで、進むべき道が一本の線として見えた気がします。そこから行動が変わり、周囲からの協力も自然と集まってくるようになりました。まさに、人生を変えてくれた一冊です。

本は読むタイミングが重要であり、誰にとっても同じ効き目があるとは思いません。しかし「自分がどこかで気づけるか」ということこそが、成功への大きな鍵だと思います

このほか、繰り返し読んでいるのが『論語』と『孫子の兵法』です。経営において本質を見極めるための視座を与えてくれる、普遍的な教えだと感じています。2500年以上前に語られたことが今でも通用するという事実には、改めて人間にとって大切な原理が変わらないのだと気づかされます。

ぜひご一読ください。

言葉の氣力が人を動かす: 山岡鉄舟・中村天風にみるプラス発想のすすめ藤平 光一 (著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4804714022

『論語』金谷 治訳注 (その他)

https://www.amazon.co.jp/dp/4003320212

『孫子の兵法』守屋 洋 (著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4837900186

投稿者プロフィール

『社長の履歴書』編集部
『社長の履歴書』編集部
企業の「発信したい」と読者の「知りたい」を繋ぐ記事を、ビジネス書の編集者が作成しています。

企業出版のノウハウを活かした記事制作を行うことで、社長のブランディング、企業の信頼度向上に貢献してまいります。